V/f一定制御とトルクブースト ― 低速でトルクが落ちる理由を数字で追う

V/f一定制御とトルクブースト ― 低速でトルクが落ちる理由を数字で追う モータとインバータ

インバータは、周波数だけでなく電圧も一緒に変えています。(インバータそのものの働きは、記事「インバータとは何をする装置か」で説明しています)

では、なぜ電圧も変える必要があるのか。そしてなぜ、V/fを一定にしても低い周波数ではトルクが落ちてしまうのか。

トルクブーストは、低い周波数のときだけ出力電圧を上乗せして、この「落ちる分」を補う機能です。今回は、そこを数字で追ってみます。

なぜ電圧も一緒に下げるのか

周波数だけを下げると、モータに過大な電流が流れます。

モータの巻線はコイルなので、リアクタンス(交流に対する抵抗のようなもの)を持っています。

リアクタンス X = 2πfL

ここで f は周波数です。式を見て分かる通り、周波数が下がるとリアクタンスも下がります。

仮に、こういうモータがあったとします。数字は計算しやすいように置いた説明用の値で、実在のモータの値ではありません。

  • 電源電圧 127V(三相220Vの相電圧)
  • 周波数 50Hz
  • リアクタンス 12.7Ω
交流電源(電源電圧127V、周波数50Hz)にリアクタンスX=12.7Ωが接続された回路図。
図A:リアクタンスだけを考えた場合の回路

このとき流れる電流は、

I = V / X = 127 / 12.7 = 10A

ここで、電圧を127Vのままにして、周波数だけを1/10の5Hzに下げるとどうなるか。

リアクタンスは周波数に比例するので、12.7Ω → 1.27Ω に下がります。すると、

I = 127 / 1.27 = 100A

電流が10倍になります。

実際には、この計算通りの100Aで済むわけではありません。電流を増やしていくと、途中で鉄心が磁気飽和して、それ以上磁束が増えなくなります。すると電流を制限していたインダクタンスの働きが弱まるので、電流だけがさらに急増します。保護が働かなければ、いずれにせよモータは焼けます。実際のインバータでは、その前に過電流の保護が働いて止まります。

これを避けるために、周波数を下げるときは電圧も比例して下げる。電圧と周波数の比を一定に保つ。これが V/f一定制御 です。

V/f一定にすると、なぜトルクが変わらないのか

V/fを一定にする本当の目的は、電流を抑えることそのものではなく、モータ内部の磁束を一定に保つことです。

磁束と電圧、周波数の関係は、誘起電圧の式で表されます。

E = 4.44 f N φ

E は誘起電圧、f は周波数、N は巻数、φ は磁束です。これを磁束について整理すると、

φ ∝ E / f

E はほぼ電源電圧 V に等しいので(厳密には巻線抵抗による電圧降下の分だけ小さくなりますが、定格付近ではわずかです)、磁束は V/f に比例することになります。V/fを一定にすれば、磁束は一定に保たれます。

横軸に周波数、縦軸に電圧をとったグラフ。原点から右上へ直線が伸び、周波数に比例して電圧も上がることを示している。
V/f一定制御。周波数に比例して電圧も上げ下げする

そして、誘導電動機のトルクは、おおまかにこう決まります。

トルク ∝ 磁束 × 二次電流

この式は、二次力率(二次電流のうち、トルクになる向きの成分の割合)の項を省いた形です。すべりの小さい普段の運転範囲では二次力率がほぼ1なので、この形で考えて差し支えありません。

磁束が一定で、同じすべり周波数(すべり × 周波数)で運転していれば二次電流も同じになる。結果として、周波数を変えてもトルクは変わりません。すべりとは何か、そして二次電流がすべりそのものではなくすべり周波数で決まるのはなぜかは、記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で説明しています。

周波数を変えると、トルク特性の曲線が横方向に平行移動するだけになります。これが、インバータで速度を変えても力が落ちない理由です。

それでも低速でトルクが落ちる

ここからが本題です。

前の節では、E ≒ V として扱いました。定格付近ではこの近似で問題ありません。しかし低い周波数では、話が変わります。

V/f一定にしているのに、周波数が低い領域ではトルクが落ちます。理由は、巻線の抵抗 です。

先ほどの説明では、電圧がすべて磁束を作るために使われる前提でした。しかし実際のモータには一次巻線の抵抗があり、そこで電圧が消費されます。磁束を作るために使われる電圧(励磁電圧)は、その残りです。

交流電源(電源電圧127V、周波数50Hz)に、巻線抵抗R=0.5Ωとリアクタンス X=12.7Ω が直列に接続された回路図。
図B:巻線抵抗R=0.5Ωを加えた回路

同じモータで、一次巻線の抵抗が0.5Ω、電流が10A流れているとします。負荷トルクは同じで、50Hzでも5Hzでも同じ10Aが流れるものとして計算します。

50Hzのとき

  • 巻線抵抗での電圧降下 = 10A × 0.5Ω = 5V
  • 励磁電圧 = 127V − 5V = 122V

127Vのうち5Vが失われるだけなので、96%が残ります。ほとんど影響しません。

5Hzのとき

V/f一定なので、電圧は1/10の12.7Vになります。しかし電流が同じなら、巻線抵抗での電圧降下は変わりません。

  • 巻線抵抗での電圧降下 = 10A × 0.5Ω = 5V(50Hzのときと同じ)
  • 励磁電圧 = 12.7V − 5V = 7.7V

12.7Vのうち5Vが失われるので、残るのは61%です。

同じ5Vでも、元の電圧が小さいほど、食われる割合が大きくなる。これが低速でトルクが落ちる理由です。磁束が足りなくなるので、必要なトルクが出ない。始動できないこともあります。

では、周波数がほぼ0から始まる始動のときはどうなるのか。それでも重い負荷を動かせる理由は、記事「始動電流は6倍なのに、始動トルクは1.5倍しか出ない」で扱っています。

50Hzでは127Vのうち励磁電圧122V・電圧降下5V、5Hzでは12.7Vのうち励磁電圧7.7V・電圧降下5V。同じ5Vでも占める割合が大きく違うことを示す横棒グラフ。
同じ5Vの電圧降下でも、元の電圧が小さいほど占める割合が大きくなる

厳密には、抵抗による電圧降下とリアクタンスによる電圧降下は位相が90度違うので、単純な引き算ではなくベクトル計算になります。ここでは傾向を掴むための概算として計算しています。

トルクブーストとは、この不足分を上乗せすること

対策は単純です。足りない分を、あらかじめ電圧に上乗せしておく。

5Hzの例なら、巻線抵抗で5V食われることが分かっているので、

12.7V + 5V = 17.7V

を出力すれば、概算では、磁束を作るための電圧が12.7V分確保できます。前の節と同じく、位相の違いを無視した単純な足し算です。

この「低い周波数で電圧を上乗せする機能」が、トルクブーストです。インバータによっては電圧補正、トルク補償などと呼ばれます。パラメータで設定する値は、この上乗せ量にあたります。

V/f一定制御の直線に対し、低い周波数の領域だけ電圧を上乗せした赤い曲線を重ねたグラフ。上乗せ分がトルクブーストにあたる。
トルクブースト。低い周波数域だけ電圧を上乗せする(赤線)

上げすぎると、今度は過電流で止まる

ここは実務の話です。

トルクが足りないからといってブースト値を上げすぎると、磁束が過大になって磁気飽和を起こし、励磁電流が急増します。結果、過電流でインバータがトリップします。

つまりブーストは、低すぎればトルクが出ず、高すぎれば止まる。適正値は、実際に取り付けたモータと負荷によって変わります。

手で合わせるときの目安を示しているメーカーもあります。東芝産業機器システムのFAQは、同社のインバータ(VF-AS1)で起動時・低速時のトルクを上げる方法として、手動トルクブースト量を出荷時の設定値から+2%程度を目安に調整するよう書いています。あわせて、高く設定しすぎるとモータが損傷する場合がある、という注意もあります。

同じFAQは、オートチューニングを行ったうえで、自動トルクブースト制御やセンサレスベクトル制御を選ぶ方法も挙げています。自動トルクブーストは、インバータが出力電流を検出して、出力電圧を自動で調整する機能です。この記事では、手で設定するトルクブーストの原理だけを扱います。

もう一つ、低速運転で気をつけること

冷却です。

一般的なモータは、自分で自分を冷やしています。ここで、冷却方式の違いを押さえておく必要があります。

  • 全閉自冷形 内部が外気から遮断されていて、ファンを使わず、表面からの自然放熱だけで冷やす構造。
  • 全閉外扇形 内部を密閉したうえで、モータ自身の軸に直結したファン(外扇)が本体表面に風を送る構造。汎用モータの多くはこれです。
  • 全閉他力通風形 内部を密閉したうえで、別電源で回る独立したファンが風を送る構造。

問題になるのは全閉外扇形です。ファンがモータの軸に直結しているので、回転数を下げるとファンも遅くなり、風量が落ちます。

一方で、発熱量はほとんど変わりません。同じ負荷トルクで運転していれば、回転数が下がっても電流は流れ続けているからです。

発熱はそのまま、冷却だけが落ちる。だから低速で連続運転すると、モータが過熱します。

対策は2つです。低速域では出力を下げて使うか、他力通風形(別置ファン)やインバータ用モータを選定するか。

まとめ

  • 周波数だけを下げるとリアクタンスが下がり、電流が急増する(保護が働かなければモータが焼ける)
  • そのため電圧も比例して下げる。これがV/f一定制御
  • 目的は電流を抑えることではなく、磁束を一定に保つこと。磁束は V/f に比例する
  • 磁束が一定で、同じすべり周波数(すべり × 周波数)で運転していれば、周波数を変えてもトルクは変わらない
  • ただし巻線抵抗による電圧降下は、電流が同じなら周波数によらず一定なので、低い周波数ほど、その影響が相対的に大きくなる
  • 不足分を電圧に上乗せするのがトルクブースト
  • 上げすぎると磁気飽和で過電流トリップする。適正値は実機と負荷で決まる
  • 軸に直結したファンで冷やすモータ(全閉外扇形)は、低速では冷却風量も落ちるため、連続運転時は冷却方式に注意する

ここで扱った「周波数に応じて電圧を変える」を、インバータはインバータ部のスイッチングで実際に作り出しています。その作り方は、記事「PWM制御とは」で説明しています。

この記事の数値について

数値の根拠

  • X = 2πfL、E = 4.44fNφ、トルク ∝ 磁束 × 二次電流(二次力率の項を省いた形)── 電気の教科書に載っている一般的な式です。どの教科書かを特定して照らし合わせてはいません
  • 手動トルクブースト量の目安(出荷時の設定値から+2%程度)、自動トルクブースト制御・センサレスベクトル制御という選び方 ── 東芝産業機器システムのFAQ(VF-AS1の場合)
  • 自動トルクブーストの説明 ── オムロンのFA用語辞典

こちらで計算したもの

  • 電圧127V、周波数50Hz、リアクタンス12.7Ω、巻線抵抗0.5Ω、電流10Aは、本文で仮に置いた値です。127Vは三相220Vの相電圧(220 ÷ √3)にあたります
  • 10Aと100A、5V、122Vと7.7V、96%と61%、17.7Vは、この値からの計算です。抵抗とリアクタンスの位相の違いを無視した概算です。電流は、どちらの周波数でも10Aのままと仮定しています

書かなかったこと

  • 実機のモータの巻線抵抗や電流の値。この記事の数字は実測ではありません
  • 冷却方式の名称を、JISの冷却方式の記号と照らし合わせて確かめてはいません
  • 自動トルクブーストやセンサレスベクトル制御の仕組み

参考にした資料

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