現場では「インバータ」という言葉を毎日のように使います。
インバータ盤、インバータ制御、インバータ化。
では、あの箱は中で何をしているのか。
そう聞かれて、すぐに答えられるでしょうか。
私は答えられませんでした。
設計側に回って改めて調べ直したので、インバータが何をする装置なのかを整理しておきます。
一言でいうと、周波数を作り変える装置
誘導電動機の回転速度は、自分で決められるものではありません。
電源の周波数と、電動機の極数で決まってしまいます。
同期速度 Ns = 120f / p 〔rpm〕
(f:電源周波数〔Hz〕、p:極数)
この式の意味と、なぜ実際の回転数が計算値より小さくなるのかは、記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で説明しています。
商用電源の周波数は50Hzか60Hzに固定されています。
極数も、多くの電動機では作った時点で決まり、あとから変えられません。
つまり、そのまま電源につないだ電動機は、決まった速度でしか回りません。
インバータは、この f を自由に作り出す装置です。
50Hzの電源から30Hzの交流を作れば、電動機はその周波数に応じた速度で回ります。
速度を変える装置というより、周波数を作る装置と理解した方が、中身の話とつながります。
中身は「交流 → 直流 → 交流」
では、どうやって好きな周波数の交流を作るのか。
商用電源の交流は、決まった速さで振動しています。
この波の速さを途中で直接変える方法はありません。
そこでインバータは、いったん直流に均してから、改めて好きな周期の波を組み立て直します。
汎用のインバータでは、構成はこうなります。(交流を直流に戻さずに変換する方式もありますが、この記事では扱いません)
- コンバータ部 … 交流を直流に変換する(整流回路)
- 平滑回路 … 脈打った直流を、コンデンサで平らにならす
- インバータ部 … 直流をスイッチングして、任意の周波数の交流を作る(逆変換回路)

図中のIGBTは、高速でON/OFFできる半導体のスイッチです。IGBTと並んでいるダイオードは還流ダイオードと呼ばれます。モータの巻線はコイル(誘導性の負荷)なので、スイッチを切っても電流は急には止まりません。その電流の行き場を作るのが還流ダイオードで、これがないと、切った瞬間に高い電圧が生じて素子を傷めます。
なお、平滑回路のコンデンサは、ダイオードと組み合わさって、インバータが電源から吸い込む電流を大きく歪ませる原因にもなっています(記事「インバータの入力電流を大きく歪ませているのは、平滑コンデンサ」で扱っています)。
交流を一度壊して、作り直している。周波数を自由に選べる理由は、この理解で説明がつきます。
ここで1つ、引っかかるところがあります。スイッチにできるのは「つなぐ」か「切る」かだけです。途中の電圧は作れません。それなのに、モータは滑らかに回ります。
この矛盾をどう解いているのかは、記事「PWM制御とは」で説明しています。
「インバータ」という言葉は、2つの意味で使われている
ここが最初に混乱したところです。
厳密には、インバータとは3番目の逆変換回路だけを指します(狭義のインバータ)。
しかし現場で「インバータ」と言えば、コンバータ部も含めた装置全体を指しています(広義のインバータ)。
教科書を読んでいて話が噛み合わないと感じたら、どちらの意味で書かれているかを確認してみてください。
周波数を変えるときは、電圧も一緒に変える
インバータは周波数だけを変えているわけではありません。電圧も同時に変えています。
理由は、周波数だけを下げると電動機内部の磁束が過大になり、磁気飽和と過電流を招くためです。
これを避けるため、電圧と周波数の比(V/f)を一定に保ちながら制御します。
これがV/f一定制御と呼ばれるものです。
ただし、V/fを一定にしても、周波数が低い領域ではトルクが落ちます。
固定子巻線の抵抗成分の影響です。
そのため実際のインバータでは、低い周波数のときに電圧をやや高めに補正する機能を持っています(トルクブースト、電圧補正)。
インバータの設定でトルクブーストという項目を見たことがある人は多いと思いますが、これはその補正量を調整するものです。ただし、上げるほどよいわけではありません。上げすぎると、今度は過電流でインバータが止まります。
V/f一定制御の仕組みと、トルクブーストが何を補正しているのかは、記事「V/f一定制御とトルクブースト」で詳しく説明しています。
正直に言うと、保全をやっていた頃は、このパラメータの意味を分かっていませんでした。
低速でトルクが足りないと言われたら、とりあえずブースト値を上げる。
それで動けば終わり。なぜ上げると出るのかは、考えていませんでした。
今回調べ直して、低い周波数では巻線の抵抗成分の影響が効いてくる、その分を電圧で補っているのがこの設定だと、ようやく繋がりました。
何のために使うのか
インバータを入れる理由は、大きく5つに整理できます。
省エネルギー
とくにポンプや送風機で効果が大きくなります。
従来はダンパやバルブで絞って流量を調整していましたが、これは全速で回したまま抵抗で捨てているのと同じです。
必要な分だけ回せば、消費電力は大きく下がります。
回転数を2割落とせば、動力は約半分。ただし、この効き方は相手の機械で決まります。
(記事「回転数を落としても、電気代が下がらない機械がある」で説明しています)
始動電流を抑えられる
商用電源に直接つないで始動すると、定格電流の5〜8倍という大きな始動電流が流れます。
インバータは低い周波数からゆっくり立ち上げるため、始動電流を大きく抑えられます。このサイトのモデル計算では、5Hzから始動したときの電流は定格の約1.7〜2倍でした(トルクブーストの有無で変わります)。
受電設備の容量や電圧降下への影響を軽くできます。ただし、負荷や加速のさせ方によっては、このように定格を超える電流が流れるので、インバータの容量を選ぶときは、この始動時の電流も見込む必要があります。
なぜそれほど流れるのかは最初の節で挙げた誘導電動機の記事で、それだけ流れても始動トルクが電流ほどには大きくならない理由は記事「始動電流は6倍なのに、始動トルクは1.5倍しか出ない」で説明しています。
加減速を自由に設定できる
ソフトスタート、ソフトストップができます。
ベルトやギヤへの衝撃、配管のウォータハンマを避けられ、設備の寿命に効いてきます。
工程に合わせて速度を変えられる
工作機械の主軸速度、コンベアのライン速度の同期、巻取り機の張力制御など、速度を連続的に変えられること自体が目的になる用途があります。同じ理由で、50Hz地域と60Hz地域のどちらに設置しても、同じ速度で回せます。
騒音・振動が下がる
送風機やポンプを必要な回転数まで落とせば、音も静かになります。なお、インバータで駆動すること自体によって発生する電磁騒音は別の話で、これはインバータ部がスイッチングする回数(キャリア周波数)で変わります。(記事「PWM制御とは」で説明しています)
まとめ
- 誘導電動機の回転速度は、電源周波数と極数で決まる(Ns = 120f / p)
- 商用電源の周波数は固定なので、そのままでは速度を選べない
- インバータは、交流を一度直流に変換し、そこから任意の周波数の交流を作り直す装置
- 周波数を変えるときは、磁束が過大にならないよう電圧も一緒に変える(V/f一定制御)
- 目的は省エネだけでなく、始動電流の抑制、ソフトスタート、速度制御、騒音低減など
省エネの効き方が相手の機械でどう変わるのかは、記事「回転数を落としても、電気代が下がらない機械がある」で、送風機やポンプを例に整理しています。
この記事の数値について
数値の根拠
- 始動電流が定格の5〜8倍(かご形の全電圧始動、つまり商用電源に直接つないで始動した場合)── 日本電気技術者協会「誘導電動機の各種始動法の特徴」
- 同期速度の式 Ns = 120f / p ── 誘導電動機の一般的な式です。どの教科書かを特定して照らし合わせてはいません。導出は、本文でリンクした「誘導電動機はなぜ回るのか」の記事に書いています
こちらで計算したもの
- 回転数2割減で動力が約半分になるという本文の数字は、動力が回転数の3乗に比例する機械(流量を変える送風機やポンプなど)を仮定した計算です。0.8³ ≒ 0.51 です
- インバータで5Hzから始動したときの電流(定格の約1.7〜2倍)は、本文でリンクしたトルク特性曲線の記事の計算モデルの値です。V/fの比のままで171%、トルクブーストありで206%でした。実機で測った値ではありません
書かなかったこと
- インバータが定格の何%の電流を何秒まで流せるか(過負荷耐量)。機種で違い、資料で確かめていません
- 交流を直流に戻さずに変換する方式の中身
- どの機械で動力が回転数の3乗に比例しないのか。記事「回転数を落としても、電気代が下がらない機械がある」で扱っています

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