入力電流を歪ませているのは、ダイオードではない

記事のタイトル画像。屋外のプラントを背景に、作業服の人物がインバータ盤とモータを見て考えこんでいる。「入力電流を歪ませているのは、ダイオードではない」「歪みの原因は、別にある。」という文字が入っている。 インバータと制御

インバータは、交流を一度直流に直してから、また交流に作り直します。

その「一度直流に直す」ところで、電源から吸う電流が歪みます。整流しているのだから仕方がない ── そう思われがちですが、歪ませているのはダイオードではありません。

犯人は、その次にいる平滑コンデンサです。

インバータは、3つのブロックでできている

インバータの中は、大きく3つに分かれています。整流するところ、ためるところ、作り直すところ。交流を一度直流にして、大きなコンデンサでならし、そこから好きな周波数の交流を作ります。

(それぞれが何をしているかは、記事「インバータとは何をする装置か」で説明しています)

この記事が扱うのは、最初の2つです。整流するところと、ためるところ。電源から見て、インバータが何を吸っているかという話になります。

インバータの中を3つのブロックで示した図。左から「整流する(ダイオード)」「ためる(平滑コンデンサ)」「作り直す(スイッチング)」が並び、左端が電源、右端がモータ。整流とためるの2つの下に括弧があり、「この記事が扱うのは、ここ」と示している。

ダイオードだけなら、そこまで歪まない

まず、平滑コンデンサをほとんど無し(1µF)にした状態で考えます。三相の交流をダイオードで整流して、そのまま負荷につないだ回路です。完全に0にはしていません。実際の装置にも、わずかな容量はあります。

このとき電源から流れる電流の歪みは、28%でした。

「歪み」は、正弦波からどれだけ外れているかを表す数字です(総合ひずみ率、THD)。0%なら完全な正弦波。28%は、決して小さくはありませんが、このあと出てくる数字と比べると、ほとんど無害です。

力率も0.96あります。

なお、直流側を十分に平らにした理想的な6パルス整流では、入力電流が120度通電の方形波になり、歪みは計算で31%になります。この記事の28%は抵抗負荷で波形がもう少しなだらかなので、それより少し低く出ています。大きく外れた値ではありません。

歪ませているのは、平滑コンデンサ

ここに平滑コンデンサを足します。大きさだけを変えて、他は何も変えません。

平滑コンデンサ歪み(THD)波高率電流実効値総合力率電力
1 µF(ほぼ無し)28.0%1.3116.4 A0.9615454 W
100 µF47.0%2.1017.5 A0.9055477 W
470 µF116.9%2.5125.7 A0.6435719 W
1000 µF103.4%2.3224.2 A0.6925811 W
3300 µF92.9%2.1822.6 A0.7225661 W
10000 µF89.6%2.1522.2 A0.7315613 W

28%だった歪みが、コンデンサを大きくしていくと90%を超えます。100µFでは47%、470µFで117%。そこから先は、大きくすると少しずつ下がりますが、90%前後より下がりませんでした。

理由は、電流の流れ方が変わるからです。コンデンサがあると、電源の電圧がコンデンサの電圧より高くなった一瞬だけ、ダイオードが開いて電流が流れます。残りの時間は流れない。細くて高い山のような電流になります。波高率が1.3から2.5に上がっているのが、その形です。

電源から流れる電流の波形を2周期ぶん重ねたグラフ。平滑コンデンサがほぼ無い(1µF)ときは、なだらかで平らな山が続く。平滑コンデンサ3300µFのときは、流れない時間が長く、その間に細くて高い山が立つ形になり、山の高さは前者の2倍以上になっている。
流れていない時間が長いほど、流れるときの山は高くなります。山が高いのは、電力が増えたからではありません。

そして表を上から下まで見てください。どの大きさにしても、28%には戻りません。

コンデンサの大きさは、歪みを直すつまみではない。

入力電流を歪ませているのは、整流しているダイオードではなく、その後ろの平滑コンデンサです。そして、コンデンサの大きさを変えても直りません。

この電流に、力率の絵は使えない

ここで、力率の話とつながります。

力率の記事では、モータの電流を「電力として使われる分」と「磁界とやりとりする分」に分け、電圧に対してどれだけずれているかで力率を説明しました。

その絵は、この電流には使えません。

平滑コンデンサ3300µFのとき、電圧と電流のずれだけで計算した力率は0.986です。ほとんどずれていない。それなのに、実際の力率は0.722しかありません。

差は、ずれではなく歪みです。

電流の実効値は、基本波(60Hzの成分)の1.37倍流れています。増えた0.37倍分は、5次(300Hz)や7次(420Hz)といった、電源には存在しない周波数の電流です。遅れても進んでもいないので、ずれの絵には描けません。

(力率とずれの関係は、記事「進相コンデンサを入れても、モータの電流は減らない」で説明しています)

力率を悪くする理由は2つあります。ひとつは電圧と電流のずれ。もうひとつは、電流が正弦波でないこと。

インバータの入力電流は、ずれはほとんどなく、歪みだけで力率が0.72まで落ちています。

直せるのは、直列に入れるリアクトル

では何なら直るか。電源とインバータのあいだに、直列にリアクトル(コイル)を入れることです。

平滑コンデンサは3300µFのまま、リアクトルだけを変えます。今度は同じ電力(5500W)を運ばせた状態で比べます。表1とは負荷のつなぎ方が違うので、同じ3300µFでも数字がわずかに違います。

交流リアクトル歪み(THD)5次電流電流実効値総合力率ずれだけの力率
ほぼ無し93.6%11.75 A22.1 A0.7200.985
0.42 mH49.3%7.19 A18.2 A0.8740.974
0.7 mH37.6%5.70 A17.5 A0.9080.970
1.3 mH28.8%4.49 A17.3 A0.9190.956
2.5 mH21.5%3.39 A17.6 A0.9050.926

歪みは、入れるほど下がり続けます。93.6%から21.5%まで。5次電流も11.75Aから3.39Aへ、3分の1以下になります。

ところが、電流の実効値は下げ止まります。22.1Aから17.3Aまでは減りますが、そこから先は減らず、2.5mHではむしろ増えています。

右端の列を見てください。ずれだけの力率が、0.985から0.926に落ちています。

リアクトルもコイルです。力率の記事で見た「磁界とやりとりする分」が、ここでも流れます。歪みを抑えるために入れたコイルが、こんどは自分でずれを作る。

リアクトルは、歪みを減らすかわりに、今度は電圧と電流のずれを作ります。歪みは下がり続けます。そのかわり、ずれのほうが少しずつ増えていく。最初は歪みの改善のほうがずっと大きいので総合の力率は良くなりますが、あるところで追いつかれます。だから途中で頭打ちになり、電流も下げ止まる。

上下2段のグラフ。横軸はどちらも交流リアクトルの大きさ。上は歪み(%)で、93.6%から21.5%まで下がり続ける。下は電流の実効値で、22.1Aから17.3Aまで下がったあと、1.3mHで下げ止まり、2.5mHでは17.6Aに増えている。

リアクトルも「大きくすればするほど良くなる」ではありません。

歪みを直すのは、コンデンサの大きさではなく、直列に入れるリアクトルです。

ただし入れすぎると、歪みのかわりにずれが増えます。電流はどこかで下げ止まります。

制度の側も、リアクトルの有無で分けている

ここまでは私の計算です。制度の側がどう扱っているかを見ると、同じ向きの数字が出てきます。

高圧や特別高圧で受電している需要家には、「高圧又は特別高圧で受電する需要家の高調波抑制対策ガイドライン(平成6年制定、平成16年改正)」があります。設備がどれだけ高調波を出すかを見積もるとき、機器の容量を等価容量という共通の物差しに換算します。日本電気技術者協会の解説に「等価容量とは、高調波発生機器毎にその容量を三相ブリッジ6パルス変換装置(6相整流器)の回路構成容量に換算したものの総和をいう」とあります。

その換算に使うのが換算係数です。指月電機製作所の解説には、「高調波抑制対策技術指針JEAG9702-2023」からの抜粋として、回路種別ごとの係数が載っています(技術指針JEAG9702は、ガイドラインとは別の文書です)。

三相ブリッジでコンデンサ平滑のもの ── この記事が丸ごと扱っている回路です ── は、こうなっています。

回路種別換算係数
6パルス変換装置・リアクトルなしK31 = 3.4
6パルス変換装置・交流側リアクトルありK32 = 1.8
6パルス変換装置・直流側リアクトルありK33 = 1.8
6パルス変換装置・交流側と直流側の両方K34 = 1.4

同じインバータでも、リアクトルが付いているかどうかで係数が3.4と1.8に分かれます。比は1.9倍。

私の計算では、リアクトルほぼ無しの5次電流が11.75A、交流リアクトル0.7mHのときが5.70A。約2倍でした。近い値です。

(換算係数は装置全体の発生量を容量に換算するための数字で、5次だけの比ではありません。数字が一致したという話ではなく、同じ向きに、同じくらいの大きさで効いているという話です)

なお、この記事では流出電流の上限値までは扱いません。受電電圧や契約容量ごとの表が必要になります。

まとめ

  • インバータは、整流するところ・ためるところ・作り直すところの3つに分かれる。この記事が扱うのは最初の2つ
  • ダイオードで整流しただけなら、電流の歪みは28%
  • 平滑コンデンサを足すと歪みが増える。大きくしていくと90%を超え、そこから先はほとんど動かない。歪ませているのはコンデンサ
  • コンデンサの大きさをどう変えても、28%には戻らない
  • 力率が悪い理由は2つある。電圧と電流のずれと、電流が正弦波でないこと。インバータの入力電流は後者だけで0.72まで落ちる
  • 直列にリアクトルを入れると歪みは下がり続ける。ただし電流は途中で下げ止まる。歪みが減るかわりにずれが増えるから
  • 技術指針の換算係数も、リアクトルの有無で3.4と1.8に分かれている

この記事の数値について

すべて私が組んだ計算で、実機の測定値ではありません。条件は次のとおりです。

  • 三相200V・60Hz。ダイオードブリッジ+平滑コンデンサ+負荷
  • 電源側に直列のインダクタンスと抵抗0.02Ω。ダイオードは理想
  • 時間刻み0.5マイクロ秒。定常状態の2周期をフーリエ変換して算出
  • 表1(コンデンサを変える):電源側インダクタンス100µH固定、負荷は13.25Ωの固定抵抗。コンデンサを変えると直流電圧が変わるので、電力も5454〜5811Wの範囲で動きます(表に載せています)
  • 表2(リアクトルを変える):平滑コンデンサ3300µF固定、負荷は5500W一定
  • 表2の「交流リアクトル」の値は、電源側インダクタンスの合計です。表1の100µHに足した値ではありません
  • 「ずれだけの力率」は、基本波の電流が電圧に対してどれだけずれているかで計算したものです
  • 電流実効値 ÷ 基本波電流 = 1.37(3300µF・リアクトルほぼ無しのとき)
  • 「リアクトルほぼ無し」を0にはしていません。実際の設備にも変圧器とケーブルがあるためです
  • 理想的な6パルス整流(直流電流が一定)の歪み31.08%は、高調波が6k±1次に1/hの大きさで並ぶことから計算したものです。出典ではなく、こちらで計算した値です

参考にした資料

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