工場の動力に来ている線は3本です。
単相なら、行きと帰りで2本。それを3組そろえれば6本のはずですが、実際に盤から出ているのは3本しかありません。
どこで減ったのか。そして、三相を扱うと必ず出てくる「1.73倍」は、どこから来るのか。この記事は、その2つだけを扱います。
6本の線が、3本になる
単相の電源を3組つくります。1組につき行きと帰りで2本ですから、全部で6本です。図1の①です。
(交流なので電流の向きは行ったり来たりしますが、ここでは配線の役割として「行き」「帰り」と呼んでいます)
帰りの3本は、1本にまとめられます。3組の帰り道を1か所で束ねて、そこから太い線を1本通せばいい。これで4本です(図1の②)。束ねた点を中性点と呼びます。
ここまでは、三相でなくてもできます。3組がどんなずれ方をしていても、束ねること自体はできる。
三相が特別なのは、この4本目を外してしまえるところです(図1の③)。

4本目は、条件つきで外せる
まとめた帰り線には、3組ぶんの電流が合流してきます。3組をばらばらに使うなら、3本ぶんの電流が流れる太い線が要るはずです。
ところが、3本の電流の大きさがそろっていて、120度ずつずれていれば、この線に流れる電流はゼロになります。
図2は、その3本の波と、3本を足した値を重ねたものです。横軸は1周期を360度、プラスに振れている線が「出ていく」側です。

ある瞬間に2本が出ていくとき、残る1本が、その2本ぶんをまとめて引き受けています。60度ごとに、1本が出て2本が引き受ける側と入れ替わる。それでも、足した線は時間軸の上に貼りついたまま動きません。
電流がゼロなら、線は要りません。だから外せる。
裏を返せば、外せるのはこの条件が保たれているあいだだけです。そろわない負荷をつないでも、線が3本しかなければ、電流の和は0になるしかありません。しわ寄せは電圧のほうに出ます。組ごとに受け取る電圧が変わってしまう。
三相のモータは、中に入っている3つの巻線が同じものなので、この条件をつくりつけで満たしています。だから3本で足ります。
三相の3本は、帰り線を省いた形です。省けるのは、3組の大きさがそろって120度ずつずれているあいだ、3つを足すといつも0になるからです。
(3つの巻線が回転磁界をつくるしくみは、記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で説明しています)
線どうしの電圧は、電源1組ぶんの1.73倍になる
帰り線を外したので、電圧を測る相手がいなくなりました。
4本あったころは、「電源1組ぶんの電圧」を測ることができました。行きの線と、帰りの線のあいだの電圧です。これを相電圧と呼びます。
3本になると、測れるのは線どうしのあいだだけです。これが線間電圧。テスターを2本の線に当てて出てくる、あの数字です。
問題は、この2つが同じ値にならないことです。
線どうしの電圧は、2組の電源の差になります。一方の線から見て、もう一方の線がどれだけ高いか低いか。だから引き算です。
2組が同じ向きに振れていれば、差は0。まったく逆向きなら、差は2倍。三相はそのあいだで、120度ずれています。ずれた2つを引き算すると、長さは1.73倍になります。
図3は、その引き算を矢印で描いたものです。

正確には√3、小数で書くと1.7320508…と続く数です。中性点と2本の先を結ぶ三角形の形が決まれば、辺の長さも決まる。それだけの話で、覚え込む必要のある定数ではありません。
相電圧=電源1組ぶんの電圧。線間電圧=線どうしの電圧。
120度ずれた2つを引き算するので、線間電圧は相電圧の1.73倍になります。
1.73倍は、電圧か電流のどちらかに1回だけ付く
ここまでは電源の話でした。同じことが、モータの巻線側にも起きます。
モータの中には3つの巻線が入っています。つなぎ方は2通りです。
Y(スター)結線は、3つの巻線の片端を1か所に集める形です。集めた点が中性点。巻線1本にかかるのは相電圧で、端子どうしの電圧はその1.73倍になります。電流のほうは、巻線を通った電流がそのまま線に出ていくので、巻線も線も同じです。
Δ(デルタ)結線は、3つの巻線を輪にする形です。巻線1本が2つの端子のあいだに直接入っているので、巻線にかかるのは線間電圧そのもの。
かわりに、1つの端子には巻線が2本つながっています。線に出てくるのは、その2本の巻線電流の差です。2つぶんだから2倍、とはなりません。この2本の電流も120度ずれているので、電圧のときとまったく同じ引き算になり、同じ1.73倍が出てきます。
(なお「相電圧」は、この記事では中性点に対する電圧の意味で使っています。教科書では「1相にかかる電圧」の意味で使われることもあり、その場合はΔ結線で線間電圧と同じ値になります)
2つを図4に並べました。

並べてみると、出どころはどちらも同じ引き算です。そして巻線と線を比べたとき、1.73倍という数字は必ずどちらかに1回だけ付きます。Yなら電圧に、Δなら電流に。両方に付くことも、どちらにも付かないこともありません。
同じ1台のモータを、始動のあいだだけYにつなぎ、加速したらΔに切り替える方式もあります(記事「スターデルタ始動でも、モータの発熱は減らない」で扱っています)。
Y結線 ── 1.73倍は電圧に付く。電流は巻線も線も同じ。
Δ結線 ── 1.73倍は電流に付く。電圧は巻線も線も同じ。
現場の「200V」は、線どうしの電圧
現場で「200Vのモータ」と言うとき、その200Vは端子どうしの電圧、つまり線間電圧です。銘板に書いてあるのも、盤の図面に書いてあるのも、線間電圧です。
では、巻線1本にかかっているのは何Vか。それはつなぎ方で変わります。Y結線なら115.5V、Δ結線なら200Vそのものです(図4)。
同じ「200Vのモータ」でも、中で巻線が受けている電圧は、銘板か図面で結線を確かめるまで分かりません。400Vの系統なら、Y結線で231V、Δ結線で400Vです。
電流も同じです。盤の電流計やクランプが見ているのは、線に流れる電流。Y結線なら巻線にも同じ電流が流れ、Δ結線なら巻線の中を流れているのはその1.73分の1です。
線に流れている電流のうち、どれだけが電力になっているか ── その話は、記事「進相コンデンサを入れても、モータの電流は減らない」で扱っています。
まとめ
- 三相の3本は、単相3組の6本から、帰りをまとめて外した形
- 外せるのは、3本の電流の大きさがそろって120度ずつずれているあいだ、3つを足すと0になるから
- 条件が崩れると、しわ寄せは電圧に出る。3本で足りるのは、3組がそろっているあいだだけ
- 相電圧は電源1組ぶんの電圧、線間電圧は線どうしの電圧。線間電圧のほうが1.73倍(√3倍)大きい
- Y結線 ── 端子どうしの電圧は、巻線1本の1.73倍。電流は巻線も線も同じ
- Δ結線 ── 線に流れる電流は、巻線1本の1.73倍。電圧は巻線も線も同じ
- 銘板や図面の「200V」は線間電圧。巻線1本にかかる電圧は、Yなら115.5V、Δなら200V
この記事の数値について
- √3 = 1.7320508…(本文では1.73、計算では1.732を使いました)
- 200 ÷ 1.732 = 115.47 → 115.5V
- 400 ÷ 1.732 = 230.9 → 231V
- 図2の3点は、1周期を360度としたときの45度の瞬間の値です(3つの値が重ならない瞬間を選びました)。+0.71 / −0.97 / +0.26 で、足すと0
- 相電圧の長さを1としたとき、120度離れた2本の差の長さは 2 × sin60° = √3


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