三相はなぜ3本で足りるのか ──「1.73倍」が付く場所

作業者とカピバラが「?」を浮かべて考えている絵。右手前に、赤・白・青の3本の電線の切り口が大きく描かれ、背景に鉄塔と配電盤がある。左上に「三相はなぜ3本で足りるのか」の見出し。 電力と力率

三相が3本の線で足りるのは、帰りの線をまとめて外せるからです。3組の電流の大きさがそろい、120度ずつずれているあいだは、足すと0になります。このとき1.73倍(√3倍)が付くのは、Y結線なら端子どうしの電圧(線間電圧)、Δ結線なら線に流れる電流(線電流)で、どちらも巻線1本に対しての倍率です。線間200VのY結線なら、巻線1本の電圧は200÷√3(1.732)で約115.5Vです(1.73で割ると約115.6V。差は丸め方の違いです)。Δ結線なら、巻線1本にも200Vがそのままかかります。

工場の動力に来ている線は3本です。単相なら行きと帰りで2本なので、3組そろえれば6本のはずですが、実際に盤から出ているのは3本しかありません。

6本の線が、3本になる

単相の電源を3組つくります。1組につき行きと帰りで2本ですから、全部で6本です。図1の①です。

(交流なので電流の向きは行ったり来たりしますが、ここでは配線の役割として「行き」「帰り」と呼んでいます)

帰りの3本は、1本にまとめられます。3組の帰り道を1か所で束ねて、そこから太い線を1本通せばいい。これで4本です(図1の②)。束ねた点を中性点と呼びます。

ここまでは、三相でなくてもできます。3組がどんなずれ方をしていても、束ねること自体はできる。

三相が特別なのは、この4本目を外してしまえるところです(図1の③)。

配線が6本から3本に減っていく3枚組の図。①は電源と負荷の組が3つ独立していて、行きと帰りで合わせて6本。②は3組の帰りを1か所に束ねて1本にまとめ、合わせて4本。束ねた点を中性点と呼ぶことを注記している。③はその1本を外して3本になり、この線には電流が流れないことを注記している。

4本目は、条件つきで外せる

まとめた帰り線には、3組ぶんの電流が合流してきます。3組をばらばらに使うなら、3本ぶんの電流が流れる太い線が要るはずです。

ところが、3本の電流の大きさがそろっていて、120度ずつずれていれば、この線に流れる電流はゼロになります。

図2は、その3本の波と、3本を足した値を重ねたものです。横軸は1周期を360度、プラスに振れている線が「出ていく」側です。

横軸が1周期(0度から360度)、縦軸が電流(最大値を1とした値)のグラフ。同じ大きさの正弦波3本が120度ずつずれて描かれ、3本を足した線は0の目盛りの上で水平なまま動かない。45度の縦点線の上に、1本目+0.71、2本目−0.97、3本目+0.26の3点があり、この瞬間も足すと0であることを注記している。

ある瞬間に2本が出ていくとき、残る1本が、その2本ぶんをまとめて引き受けています。60度ごとに、「2本が出て1本が引き受ける」形と「1本が出て2本が引き受ける」形が入れ替わる。それでも、足した線は時間軸の上に貼りついたまま動きません。

電流がゼロなら、線は要りません。だから外せる。測定器メーカーのテクトロニクスの技術資料「三相測定の基礎」も、6本から3本になる理由を同じように説明しています。負荷がそろい(バランスし)、3つの電流が120度ずつずれていれば、共通の帰り線の電流はどの瞬間もゼロになり、6本ぶんを3本で送れる、という説明です。

裏を返せば、外せるのはこの条件が保たれているあいだだけです。線が3本しかなければ、3本の電流の和は0になるしかありません。そこへ、そろわない負荷をY形につないでいると、和を0に保つために負荷側の中性点の電位がずれ、しわ寄せは電圧のほうに出ます。組ごとに受け取る電圧が変わってしまう。

負荷をΔ形につないでいる場合は違います。それぞれの負荷には線どうしの電圧がそのままかかるので、電源が十分に強ければ、そろわなさはまず線ごとの電流の違いとして現れます。

三相のモータは、中に入っている3つの巻線が同じものなので、電源の3組の電圧がそろっていれば、この条件を満たします。だから3本で足ります。

三相の3本は、帰り線を省いた形です。省けるのは、3組の大きさがそろって120度ずつずれているあいだ、3つを足すといつも0になるからです。

3組がそろえば、線どうしの電圧は電源1組ぶんの1.73倍になる

帰り線を外したので、電圧を測る相手がいなくなりました。

4本あったころは、「電源1組ぶんの電圧」を測ることができました。行きの線と、帰りの線のあいだの電圧です。これを相電圧と呼びます(ここでは、中性点に対する電圧の意味で使います)。

3本になると、測れるのは線どうしのあいだだけです。これが線間電圧。盤の電圧計や、テスターを2本の線に当てたときに出てくる数字です。

問題は、この2つが同じ値にならないことです。

線どうしの電圧は、2組の電源の差になります。一方の線から見て、もう一方の線がどれだけ高いか低いか。だから引き算です。

2組が同じ向きに振れていれば、差は0。まったく逆向きなら、差は2倍。三相はそのあいだで、120度ずれています。ずれた2つを引き算すると、長さは1.73倍になります。

図3は、その引き算を矢印で描いたものです。

中性点から3方向に伸びる相電圧a・b・cのベクトル図。相電圧bの先端から相電圧aの先端へ向かう矢印を「線間電圧(aとbの差)」として描き、補助線で正三角形を示している。相電圧の長さを1とすると、線間電圧の長さは1.73倍であることを注記している。

正確には√3、小数で書くと1.7320508…と続く数です。中性点と2本の先を結ぶ三角形の形が決まれば、辺の長さも決まる。それだけの話で、覚え込む必要のある定数ではありません。Y結線の線間電圧が相電圧の√3倍になることは、テクトロニクスの同じ資料にも図で示されています。同じ資料は、√3を使えるのはバランスのとれた(3組がそろった)線形のシステムに限る、とも書いています。

相電圧=電源1組ぶんの電圧。線間電圧=線どうしの電圧。

120度ずれた2つを引き算するので、線間電圧は相電圧の1.73倍になります。

巻線と線を比べると、1.73倍は電圧か電流の片方に付く

ここまでは電源の話でした。同じことが、モータの巻線側にも起きます。

モータの中には3つの巻線が入っています。つなぎ方は2通りです。

Y(スター)結線は、3つの巻線の片端を1か所に集める形です。集めた点が中性点。巻線1本にかかるのは相電圧で、端子どうしの電圧はその1.73倍になります。電流のほうは、巻線を通った電流がそのまま線に出ていくので、巻線も線も同じです。

Δ(デルタ)結線は、3つの巻線を輪にする形です。巻線1本が2つの端子のあいだに直接入っているので、巻線にかかるのは線間電圧そのもの。

かわりに、1つの端子には巻線が2本つながっています。線に出てくるのは、その2本の巻線電流の差です。2つぶんだから2倍、とはなりません。この2本の電流も120度ずれているので、電圧のときとまったく同じ引き算になり、同じ1.73倍が出てきます。

この関係は、東陽テクニカの技術資料「三相交流における結線について」にも式で載っています。Δ結線では線電流が相電流(巻線に流れる電流)の√3倍、Y結線では線電流と相電流が同じです(資料は電源側の結線として説明しています)。この資料はΔ結線の説明で「相電圧」を「1相にかかる電圧」の意味で使っていて、その意味では、Δ結線の相電圧と線間電圧は同じ値になります。

2つを図4に並べました。

左がY(スター)結線、右がΔ(デルタ)結線の結線図。3つの巻線をコイル記号で描き、Yは片端を中性点に集めてU・V・Wの端子を出す形、Δは三角形の輪にして頂点からU・V・Wを出す形。Yには「巻線にかかるのは相電圧/端子どうしはその1.73倍/電流は巻線も線も同じ」、Δには「巻線にかかるのは線間電圧そのもの/線に流れる電流は巻線の1.73倍/電圧は巻線も端子どうしも同じ」と併記している。

並べてみると、出どころはどちらも同じ引き算です。そして3組がそろっていれば、巻線と線を比べたとき、1.73倍という数字はどちらかに1回だけ付きます。Yなら電圧に、Δなら電流に。両方に付くことも、どちらにも付かないこともありません。

同じ1台のモータを、始動のあいだだけYにつなぎ、加速したらΔに切り替える方式もあります(記事「スターデルタ始動でも、モータの発熱は減らない」で扱っています)。

Y結線 ── 1.73倍は電圧に付く。電流は巻線も線も同じ。

Δ結線 ── 1.73倍は電流に付く。電圧は巻線も線も同じ。

現場の「200V」は、線どうしの電圧

現場で「200Vのモータ」と言うとき、その200Vは端子どうしの電圧(線間電圧)です。銘板に書いてあるのも、盤の図面に書いてあるのも、線間電圧です。

では、巻線1本にかかっているのは何Vか。それはつなぎ方で変わります。Y結線なら約115.5V、Δ結線なら200Vそのものです(図4)。

同じ「200Vのモータ」でも、中で巻線が受けている電圧は、銘板か図面で結線を確かめるまで分かりません。400Vの系統なら、Y結線で約231V、Δ結線で400Vです。日立産機システムのカタログでは、口出し線が3本のモータの結線図として、Y結線とΔ結線の両方が載っています。

銘板・図面の電圧(線間)結線巻線1本にかかる電圧巻線に流れる電流
200VY約115.5V線の電流と同じ
200VΔ200V線の電流の1.73分の1
400VY約231V線の電流と同じ
400VΔ400V線の電流の1.73分の1

ここでいう約115.5Vや約231Vは、モータの巻線1本にかかる電圧です。相電圧の話は、中性点を持つY形の電源が前提です。現場の三相3線の電源で中性点が引き出されていなければ、テスターで「中性点に対する電圧」を測ることはできません。

動いている盤で線どうしの電圧を測るのは、充電部にテスター棒を当てる作業です。労働安全衛生規則第346条は、低圧の充電電路の点検などについて定めています。感電の危険が生ずるおそれがあるときは、絶縁用保護具の着用か活線作業用器具の使用を求めています。職場で決められた手順に従って行ってください。

電流も同じです。盤の電流計やクランプが見ているのは、線に流れる電流。Y結線なら巻線にも同じ電流が流れ、Δ結線なら巻線の中を流れているのはその1.73分の1です。

まとめ

  • 三相の3本は、単相3組の6本から、帰りをまとめて外した形
  • 外せるのは、3本の電流の大きさがそろって120度ずつずれているあいだ、3つを足すと0になるから
  • 条件が崩れると、Y形の負荷ではしわ寄せが電圧に出る(Δ形の負荷では、電源が十分に強ければ、まず電流の違いとして出る)。3本で足りるのは、3組がそろっているあいだだけ
  • 相電圧は電源1組ぶんの電圧(中性点に対する電圧)、線間電圧は線どうしの電圧。3組がそろっていれば、線間電圧のほうが1.73倍(√3倍)大きい
  • Y結線 ── 端子どうしの電圧は、巻線1本の1.73倍。電流は巻線も線も同じ
  • Δ結線 ── 線に流れる電流は、巻線1本の1.73倍。電圧は巻線も線も同じ
  • 銘板や図面の「200V」は線間電圧。巻線1本にかかる電圧は、Yなら約115.5V、Δなら200V

計算の前提と途中式

  • √3 = 1.7320508…(本文では1.73、計算では1.732を使いました)
  • 200 ÷ 1.732 = 115.47 → 115.5V(1.73で割ると115.61 → 115.6V)
  • 400 ÷ 1.732 = 230.9 → 231V
  • 図2の3点は、1周期を360度としたときの45度の瞬間の値です(3つの値が重ならない瞬間を選びました)。+0.71 / −0.97 / +0.26 で、足すと0
  • 相電圧の長さを1としたとき、120度離れた2本の差の長さは 2 × sin60° = √3

参考にした資料

  • 三相測定の基礎(テクトロニクス、テクニカル・ノート)(https://www.tek.com/ja/documents/application-note/three-phase-meas-55z-28943-0)/ 確認した範囲:3つの単相の6本が、負荷がバランスすれば共通の帰り線の電流がゼロになり3本で送れること。Y結線の線間電圧=√3×相電圧。√3はバランスのとれた線形のシステムに限って使えること
  • 三相交流における結線について(東陽テクニカ、技術資料、2020年5月19日)(https://www.toyo.co.jp/e-mobility/casestudy/detail/id=42501)/ 確認した範囲:Y結線では線間電圧=√3×L-N間電圧(本文の相電圧)、線電流=相電流。デルタ型結線では線間電圧=相電圧、線電流=√3×相電流(資料は電源側の結線として説明)
  • モータの口出し線本数と結線(日立産機システムの総合カタログ)(https://mekatoro.net/digianaecatalog/hitac-premium/book/hitac-premium-P0009_pdf.html)/ 確認した範囲:口出し線3本のモータにY結線とΔ結線の図があること
  • 労働安全衛生規則 第346条 / e-Gov 法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032)/ 確認した範囲:低圧の充電電路の点検などで感電の危険が生ずるおそれがあるときの、絶縁用保護具・活線作業用器具

115.5V・231Vなどの数値は、上の「計算の前提と途中式」に書いた計算によるものです。

この記事を書いた人
高卒電気マン

高卒から電気の道へ。プラントの電気保全を8年あまり、受配電設備の設計を経て、現在はクレーンの電気制御設計に従事。2026年に電験三種合格。壊れる側と作る側の両方を見てきた視点で、日々の学びを記録しています。

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