サーマルリレーは、電気の仕事をしていれば、たいてい一度は触ります。交換も、整定も、トリップしたあとのリセットも。
では、あれは何を見て動いているのか。
「熱で動く」までは、たいてい知られています。問題は、誰の熱かです。

サーマルは、モータの温度を測っていない
動いているのはバイメタルです。膨張率の違う2枚の金属を貼り合わせたもので、温まると曲がります。
では何が温めるのか。ヒートエレメントに流れる電流です。モータの温度ではありません。
サーマルリレーは、モータと同じ電流を受けて、モータより先に熱くなるように作られています。
だから、こうなります。
サーマルリレーは、自分の温度で動いています。
モータがどれだけ熱いかは、見ていません。
夏場、定格以下でトリップしたことがあるなら、それは誤動作ではありません。電気室が暑く、盤の中がさらに暑い。リレーのほうが先に熱くなっただけで、原理どおりです。
メーカーの仕様は、周囲温度20℃を基準に書かれています。20℃なら、定格の105%までは動きません。ところが40℃では、100%までしか保証されません。
暑くなると、「動かない」と言える範囲が5%分せまくなります。夏の盤で起きているのは、これです。
周囲温度の影響を減らす補償機構を持つ機種もあります。ただし、それが補償するのはリレー自身の周りの温度で、モータがいる場所の温度ではありません。
検出と遮断は、別の部品がやっている
サーマルがやっていないことは、もう1つあります。
モータの温度を見ていないだけではありません。サーマルは、モータを止めてもいません。主回路を切っているのは、サーマルではないからです。
サーマルの接点が切るのは操作回路です。それで電磁接触器のコイルが切れ、接触器が主回路を開く。サーマルは検出係で、遮断係は接触器です。

リセットしても直りません。リセットで復帰するのはサーマルの接点だけで、溶着した主接点はそのままだからです。
「何秒で飛ぶか」は、整定では決まっていない
サーマルがやっていないことを、もう1つ。「何秒で飛ぶか」は、整定では決めていません。
サーマルの整定でやることは、目盛りをモータの定格電流に合わせること。これだけです。
そのあと、リレーはメーカーの仕様書どおりに動きます。ある製品の動作基準(周囲温度20℃、3極負荷)は、こうです。
| 電流 | 動作 | 条件 |
|---|---|---|
| 105% | 2時間以内に動作しない | コールドスタート(冷えた状態から) |
| 120% | 2時間以内に動作する | ホットスタート(温まった状態から) |
| 150% | 2分以内に動作する | ホットスタート(温まった状態から) |
| 720% | 2秒を超え、10秒以内に動作する | コールドスタート(冷えた状態から) |
表の右端に注目してください。同じリレーでも、冷えているときと温まっているときで、動作の基準が違います。105%で動かないのは冷えているとき、150%で2分というのは温まっているときの話です。
リレーは自分の温度で動くので、当然こうなります。停止状態から始動すればリレーは冷えていて動作は遅く、運転中に拘束すればリレーは温まっていて早く飛ぶ。
この「何秒で」を決めているのが、トリップクラスという分類です。同じ電流倍率で、何秒後に動くかで分かれています。さきほどの製品はクラス10Aで、設定電流の7.2倍のとき、2秒を超え10秒以内に動作します。
目盛りをどう回しても、この時間は変わりません。機種を選んだ時点で決まっています。
整定は、決まったことを運用に移す作業です。
守れるかどうかは、その前に、機器を選んだときに決まっています。
そして、選ぶときに見るものが3つあります。
- 始動の点 ── 何アンペアが何秒流れるか
- リレーの動作特性 ── 何アンペアで何秒後に動くか
- モータの許容拘束時間 ── 回らないまま、何秒まで耐えられるか
拘束中は軸が止まっているので、冷却ファンも回っていません。そこで、回転子の発熱は定格運転の37倍になります。(この37倍の理由は記事「すべり4%は、そのまま4%が熱になる」で説明しています)
リレーが見ているのは、モータへ流れ込む電流だけです。回転子がどれだけ熱くなっているかは、そこに入っていません。だから、許容拘束時間を別に調べて突き合わせます。

リレーの線は、始動の点より上を通り、モータの線より下を通らなければなりません。上を通らなければ始動のたびに飛び、下を通らなければ守れない。その間の帯が、選定の仕事です。帯の下の縁は、始動の点の高さです。
意味が違う3つを1枚に重ねられるのは、どれも「電流いくつで、何秒」という形で書けるからです。メーカーのカタログの曲線も、この形で描かれています。
※この図は、定格より上の過負荷の領域だけを描いています。定格そのものでは、リレーは動作しません。
実際の始動では、電流は加速につれて下がっていきます。図では、いちばん大きい電流と、始動時間の1点で代表させています。
始動に時間がかかる機械では、帯が狭くなる
始動に時間がかかれば、始動の点は上へ動きます。リレーの線は、その上を通らなければならない。だから、動作の遅い機種を選ぶことになります。
そのぶん、下の縁が上がって帯が狭くなります。通せる線の選択肢が減り、残るのはモータの線に近いものだけになります。
ただし、これは電流が変わらないまま時間だけ延びる場合です。慣性の大きい機械を全電圧で始動するときが、これにあたります。始動時間が長い大型ファンに長限時形を使うのは、この理由です。
電圧を下げて始動する方式では、話が違います。電流が下がって時間が延びるので、点は左上へ動きます。(スターデルタで加速に3倍かかることは、記事「スターデルタ始動でも、モータの発熱は減らない」で説明しています)
このとき帯がどうなるかは、一概に言えません。リレーをどこに入れるかでも変わります。ここでは、電流が変わらないまま始動が長引く場合を扱います。
始動を通すために遅い機種を選べば、拘束を検出するのも、そのぶん遅くなります。
始動を通す設定と、拘束を早く切る設定は、引っ張り合います。
どちらも満たす1つの正解はなく、帯の中のどこに置くかの判断になります。
よく飛ぶから、目盛りを上げる。これで飛びにくくはなります。
ただし、動いたのはリレーの線だけです。モータの許容曲線は、1ミリも動いていません。目盛りを上げれば、リレーの線は帯の中を上へ動き、やがて帯からはみ出します。そのとき、飛ばなくなった代わりに、守れなくなっています。
飛ぶのが困るなら、動かすのは目盛りではありません。始動の点を下げるか、機種を選び直すか、盤の温度を下げるか。そのどれかです。
サーマルだけでは、守れないものがある
ここまでは、サーマルが守るものの話でした。守れないものもあります。1つは、短絡です。
電磁接触器には、切れる電流の上限があります。短絡電流はその上です。だから短絡は、上流の配線用遮断器(MCCB)が動作して、接触器の能力の不足を補います。
過負荷はサーマル、短絡はMCCB。役割が分かれているのは、切れる能力が違うからです。
欠相も、標準のサーマルだけでは足りない場合があります。欠相を早く見つけるには、欠相要素を持つリレーが望ましいとされています。実際、過負荷に欠相を足した「2Eリレー」、それに反相(相順が逆)を足した「3Eリレー」が、標準のサーマルとは別に売られています。
欠相のときに電流がどう増えるかは、結線と機種で変わります。数字はここでは出しません。
相順が逆になっていることは、電流の大きさをいくら見ても分かりません。
なお、巻線に温度検出素子を埋め込んで、温度そのもので守る方式もあります。すべてのモータに付いているわけではなく、必要な場合に併用されるものです。
端子箱に、主回路のほかに端子が来ていることがあります。温度検出素子かもしれませんし、別のものかもしれません。何が来ているかは、仕様書で確かめてください。
その数字は、どこにあるか
| 要る数字 | どこにあるか |
|---|---|
| 定格電流 | 銘板。読めなければ図面や仕様書 |
| リレーの動作特性 | メーカーのカタログの曲線 |
| 許容拘束時間 | 銘板にはありません。メーカーの技術資料や仕様書 |
| 短絡遮断の担当 | 上流のブレーカ(MCCB)の仕様 |
| 巻線温度検出素子の有無 | 仕様書 |
拘束時間を見たことがなくても、不思議ではありません。整定作業には出てこない数字だからです。出てくるのは、機器を選ぶ側です。
型式と製番があれば、メーカーに問い合わせるのがいちばん早い。一度やっておくと、「この数字は誰が持っているか」の感覚がつきます。
まとめ
- サーマルリレーは、電流が作る熱でバイメタルが曲がって動く。モータの温度は見ていない
- サーマルはモータより先に熱くなるように作られている。自分の温度で動くので、盤が暑ければ定格以下でも動く
- サーマルは検出係。主回路を切るのは電磁接触器
- 接触器が溶着していれば、検出が正しくても止まらない。リセットで直るのはサーマルの接点だけ
- 整定でやるのは、目盛りを定格電流に合わせること。何秒で動くかは、選んだ機種で決まっている
- 選定では、始動の点・リレーの特性・モータの許容拘束時間の3つを重ねる
- 電流が変わらないまま始動が長引くほど、始動を通す設定と拘束を早く切る設定が引っ張り合う
- よく飛ぶからと目盛りを上げても、モータが耐えられる時間は変わらない。飛ばなくなった代わりに、守れなくなる
- 過負荷はサーマル、短絡は上流のMCCB、欠相には欠相要素を持つリレー。サーマル1つで全部は守れない
- 許容拘束時間は銘板にない。整定する側には見えないところに置かれている数字
参考にした資料
- サーマルリレーの原理と設定方法 ── 動作原理、整定の考え方、始動時間が長い場合の長限時形の選定
- 電磁開閉器テクニカルシート BQN-S8-9497-09-B「サーマルリレーの主回路不導通(ヒータ溶断)」(三菱電機) ── 過電流通電が続いた場合のヒータ溶断
- サーマルリレー J7TCシリーズ カタログ SGFR-603B(オムロン) ── 動作基準(105%・120%・150%・720%)、コールドとホットの別、周囲温度20℃と40℃の違い、トリップクラス10A
- 三相誘導電動機の保護システム(日本電気技術者協会) ── 過負荷と短絡の担当の分かれ方、MCCBによるバックアップ遮断、埋込サーモスタットの併用
- モータ・リレー概要(オムロン 技術解説) ── 3Eリレーの3要素(過負荷・欠相・反相)
- 2E(欠相保護付き)サーマルリレー(富士電機機器制御 FAQ) ── 2Eの2要素(過負荷・欠相)

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