モータを、そのまま電源につなぐ。これを直入(じかいれ)始動といいます。それだけで、定格の6倍の電流が流れます。そのとき、回転子の発熱は定格運転の37倍です。(電流が6倍になる理由は記事「始動電流は6倍なのに、始動トルクは1.5倍しか出ない」、発熱が37倍になる理由は記事「すべり4%は、そのまま4%が熱になる」で説明しています)
どちらも、見過ごせる数字ではありません。
では、インバータのない現場は、どうやって始動しているのか。
小さいモータなら、答えは「そのまま」です。7.5kW程度までは直入が普通で、わざわざ始動器を付けません。問題になるのは、モータが大きくなってからです。
そこで出てくる答えの1つが、スターデルタ始動。おおむね11kW以上で選ばれます。盤の中で数えれば直入のほうがずっと多いはずですが、それでも取り上げるのは、この方式が「電流を下げると何を失うか」を、いちばんはっきり見せてくれるからです。
そして、よく聞く言い方があります。
「スターデルタなら、モータに優しい」
半分は正しく、半分は違います。今回はそこを数字で分けます。
始動電流を下げるには、電圧を下げるしかない
始動電流を減らしたい。困るのは電源側です。大きな電流が流れれば電圧が落ち、遮断器もケーブルもその電流で決まります。
いちばん素直な方法は、始動のあいだだけ、モータにかける電圧を下げることです。
代表的なのは次の3つで、電圧の下げ方が違うだけです。
| 方式 | どうやって電圧を下げるか |
|---|---|
| スターデルタ | 巻線をY(スター)につなぐ。Δでつないだときに比べて、巻線1本にかかる電圧が 1/√3 になる |
| リアクトル始動 | モータと直列にリアクトルを入れ、その分だけ電圧を落とす |
| 始動補償器 | 単巻変圧器のタップから、下げた電圧を与える |
どれも、加速したあとに全電圧へ切り替えます。電圧を下げているのは始動のあいだだけです。
リアクトル始動と始動補償器は、電圧をどこまで下げるかを選べます。この記事では65%として計算します。これは、始動の瞬間の値です。
さきほどの「6本なら可能性がある」の続きです。
Y-Δ始動は、加速したあとΔで運転します。ということは、そのモータがΔ結線で電源電圧に耐えられることが条件になります。銘板の「Δ結線のときの定格電圧」を見てください。
6本という端子は、YにもΔにもつなげるという意味でしかありません。その自由を何に使うかは、電源電圧で決まります。Δでつないだときの定格が電源電圧と合っていればY-Δ始動に使え、Yでないと合わないなら、その結線のまま直入で使うことになります。だから銘板を見ます。
ただし、6端子だからスターデルタで運転されているとは限りません。盤が直入なら、端子箱の中でΔに渡して、そのまま直入で使います。「モータ側は6端子、盤は直入」という組み合わせは珍しくありません。端子箱を見ただけでは、始動方式は分かりません。
トルクは、電圧の2乗で落ちる
ここで、1つの関係が効いてきます。
トルクは電圧の2乗に比例します。(この関係は記事「始動電流は6倍なのに、始動トルクは1.5倍しか出ない」で説明しています)
だから、電圧を下げれば、下げた比率の2乗でトルクが落ちます。
| 方式 | モータにかかる電圧 | 始動トルク |
|---|---|---|
| 直入始動 | 100% | 149% |
| スターデルタ | 1/√3 = 58% | 149 × 1/3 = 50% |
| リアクトル 65% | 65% | 149 × 0.42 = 63% |
| 始動補償器 65% | 65% | 149 × 0.42 = 63% |
スターデルタで50%。定格トルクの半分しか出ません。
電圧を下げる方式は、1本の曲線から出られない
もう少し踏み込みます。モータの巻線に流れる電流とトルクを、方式ごとに並べてみます。直入のときが、電流611%・トルク149%です。

3つの点が、1本の曲線に乗ります。
電圧を下げれば、巻線電流も同じ比率で減り、トルクはその2乗で減ります。つまり「トルク ÷ 電流²」は、電圧をいくつにしても変わりません。
偶然そろっているのではありません。同じことをしている以上、必ず同じ曲線に乗ります。
リアクトル始動と始動補償器は、この図では同じ1点に重なります。始動した瞬間に限れば、モータから見て区別がつきません。(この2つの違いは、電源側に出ます)
ただし、動き出したあとは、モータ側にも違いが出ます。リアクトルは、加速してモータの電流が減るにつれて電圧降下も減るので、モータの端子電圧が自然に戻っていきます。電圧が戻れば、トルクも伸びます。始動補償器は、タップを切り替えるまで決めた電圧のままです。図1は始動の瞬間を切り取った図なので、この差は写っていません。
電圧を下げる方式では、電流を減らしたぶんだけトルクを失います。
電流を減らして、トルクだけ残す ── そういう選択肢はありません。
ところが、いちばん左上に1つだけ、曲線から外れた点があります。インバータです。なぜここにいられるのかは、電源側の話をしたあとで扱います。
同じ始動でも、電源側とモータ側で数字が変わる
図1で見たのは、モータに流れる電流でした。同じ始動を、今度は電源の側から見てみます。

直入とリアクトル始動では、電源側とモータ側が同じです。リアクトルはモータと直列に入っているので、同じ電流が通ります。
スターデルタは、少しややこしい。
Y結線では、線に流れる電流と巻線に流れる電流は、同じアンペアです。
それでも204%と353%に分かれるのは、比べる相手が違うからです。線電流は定格の線電流と、巻線電流は定格の巻線電流と比べています。
定格運転はΔ結線なので、そこでは線電流が巻線電流の√3倍。この√3のぶんだけ、電源側の下がり方が大きく見えます。
「Y-Δは電流もトルクも1/3」という覚え方があります。これは電源側の線電流で見た話です。611%が204%でちょうど1/3、トルクも149%が50%で1/3。モータの巻線が受けているのは1/√3の353%で、ここだけ1/3になりません。
始動補償器は、こちらは本当に違います。単巻変圧器なので、変圧器の入口と出口でアンペアが変わります。
そしてインバータだけが、電源側で定格を下回ります。
5Hz始動のとき、モータには171%の電流が流れています。しかし電圧は8.3%しかありません。同じモデルで計算すると、そのときモータが吸っている電力は定格の14%です。インバータが電源から取るのも、おおむねその程度になります。
これができるのは、インバータが直流を挟んでいて、入口と出口が切り離されているからです。ほかの4方式は電源とモータが直結なので、この芸当ができません。
では、モータの発熱は減るのか
ここが、この記事の核心です。
発熱は電流の2乗で効きます。ここで使うのは353%のほうです。熱くなるのは電線ではなく巻線なので、比べるのは巻線どうしになります。
モータの巻線電流は353%。直入の611%に対して1/√3ですから、2乗して発熱の速さは1/3です。
「やはりモータに優しいではないか」と思うところですが、続きがあります。
トルクも 1/3 です。
トルクが3分の1なら、同じ負荷を同じ速度まで持っていくのに、3倍の時間がかかります。

発熱の速さが 1/3、かかる時間が3倍。掛け合わせると、総発熱量は同じです。
もっと言うと、慣性だけの負荷なら、加速中に回転子で捨てられる熱の量は、モータが回転体に与えた運動エネルギーと同じだけになります。これは、周波数を変えないどの方式でも変わりません。直入でも、スターデルタでも、リアクトルでも同じです。
負荷トルクがある場合は、もっと悪くなります。加速が遅いぶん、負荷に逆らっている時間が延びるからです。
電圧を下げる方式が減らすのは、電源側の電流ピークです。
モータの発熱は減りません。むしろ、加速時間が延びるぶん条件によっては増えます。
「モータに優しい」の半分は、ここで崩れます。優しくしているのは、電源とケーブルとブレーカに対してです。
もう一度、3倍という数字を見ます。加速に3倍かかるということは、始動している時間そのものが3倍になるということです。では、その時間は許されるのか。
これは計算では出ません。モータごとに「拘束したまま何秒まで許されるか」がメーカーの仕様値として決まっていて、実際の始動時間がその範囲に収まっているかを確認することになります。始動に時間がかかる負荷や、始動を短時間に繰り返す用途では、ここが効いてきます。
インバータだけが、曲線の外に出られる理由
図1の曲線から大きく外れていたのが、インバータです。モータ電流171%で、トルク140%。

電圧を下げる方式で電流を171%まで絞れば、出るトルクは12%にしかなりません(149 × (171/611)² = 11.7%)。同じ電流で、10倍以上のトルクが出ていることになります。
理由は、周波数を変えられることです。これは、記事「極数を増やせばインバータは要らないのでは?」でインバータが必要になる理由として挙げたものと、同じです。
ほかの4方式は、周波数を60Hzのままにしています。電圧は下げても、周波数は動かしません。すると磁束が減り、トルクが電圧の2乗で落ちます。
インバータは、電圧と一緒に周波数も下げています。V/fの比を保てば、磁束が保たれます。(その理由は記事「V/f一定制御とトルクブースト」で説明しています)磁束が減らないので、トルクが2乗で落ちません。
そして、インバータが救っているのはトルクだけではありません。発熱そのものも減ります。
周波数が固定の4方式では、回転子が捨てる熱は運動エネルギーと同じ値に固定されていました。同期速度が動かないからです。
インバータは、同期速度そのものを持ち上げながら加速します。回転子はいつも同期速度のすぐ下にいるので、すべりが小さいまま加速していきます。
ここから先は、条件を1つ変えます。
図1の171%/140%は、トルクブーストなしで、出力周波数を5Hzに固定したときの値でした。ここからは、トルクブーストで磁束を保ったまま、すべり周波数(同期速度と回転子の速度の差を周波数で表したもの)を2.4Hzに保って、出力周波数を上げていくという加速のしかたを考えます。
5Hzは出力周波数、2.4Hzはすべり周波数です。同じ「Hz」ですが、別の量です。すべり周波数2.4Hzは、このモータが定格トルクを出すときのすべり周波数です。
計算すると、慣性だけの負荷なら、回転子の総発熱は「2 × すべり周波数 ÷ 加速の終わりに到達する出力周波数」の割合まで落ちます。この「2」は、ならし方から出てきます。
固定周波数の始動では、すべり周波数が60Hz(電源周波数そのもの)から0Hzまで落ちていきます。この始動は、「すべり周波数がずっと30Hzだった」場合と、ちょうど同じだけ熱を出します。(これは私の説明の仕方です。教科書にこう書いてあるわけではありませんが、計算すると厳密に一致します)
インバータでは、最後まですべり周波数は2.4Hzのままです。2.4 ÷ 30 で8%です。
電圧だけを下げる方式は、トルクも発熱も買い戻せません。
周波数を動かせる方式だけが、両方を買い戻せます。
始動の瞬間は下げて磁束を守り、加速しながら上げてすべりを小さく保つ。
V/f一定制御が「なぜ比を保つのか」の答えが、この1点に出ています。
まとめ
- 始動方式のほとんどは、始動電流を下げるために、始動のあいだだけモータにかける電圧を下げる道具
- トルクは電圧の2乗で落ちる。Y結線は電圧が1/√3なので、トルクは1/3
- 「Y-Δでは始動できない負荷がある」のは、始動トルクが定格の半分しか出ないから
- 電圧だけを下げる方式では、電流を減らした分だけトルクを失う。例外はない
- 同じ始動でも、電源から見た倍率とモータから見た倍率は一致しない。スターデルタでは同じアンペアなのに、比べる基準が違うので204%と353%に分かれる
- スターデルタでは発熱の速さが1/3になるが、加速に3倍かかるので、総発熱量は変わらない。周波数を変えない方式なら、どれも同じ
- スターデルタが守っているのは、電源とケーブルとブレーカであって、モータではない
- インバータだけが電圧と一緒に周波数も下げるので、磁束が保たれ、トルクを失わない
- 同期速度を上げながら加速するので、回転子の総発熱そのものも固定周波数の8%程度まで落ちる
この記事の数値について
本文のグラフと数値は、記事「始動電流は6倍なのに、始動トルクは1.5倍しか出ない」と同じモデルで計算しています。
電圧 V = 1.0、一次抵抗 r₁ = 0.05、二次抵抗 r₂ = 0.25、一次漏れリアクタンス x₁ = 0.5、二次漏れリアクタンス x₂ = 0.5(いずれも同じ基準にそろえた値)。定格すべり s = 0.04 の点を100%として正規化しています。
各方式の値は、このモデルの直入始動(電流611%・トルク149%)に、それぞれの電圧比を当てはめて出したものです。始動器そのものの損失やインピーダンスは含めていません。
インバータの数値は、出力周波数5Hz、V/f一定、トルクブーストなし、回転子は停止という条件で計算しています。
加速中の総発熱量の比較は、負荷が慣性だけで、インバータは定格すべり周波数(2.4Hz)を保って周波数を上げるという条件です。
加速中の発熱について。慣性だけの負荷で、回転子の総発熱が最終的な運動エネルギーと等しくなること(トルク特性によらないこと)は、標準的な結果です。一方、それを「すべり周波数30Hz相当」と言い換えて8%を出すやり方は、この記事のモデルで計算したものです。
参考にした資料
- 電動機の始動方式と始動電流 ── 全電圧始動とスターデルタ始動の、適用容量の目安
- スターデルタについて|電光工業株式会社 ── 切替時の残留電圧と、逆位相での再投入による突入電流
- モータの口出し線本数と結線(日立産機システム) ── 200V/400Vの二重倍電圧機が9本になること
- モータの結線|住友重機械(技術資料 F68) ── 6本出線がY-Δ始動に対応すること

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