インバータは、直流をスイッチングして任意の周波数の交流を作ります。(インバータの回路構成は、記事「インバータとは何をする装置か」で説明しています)
ただ、そこは「スイッチングして」の一言で済ませていました。スイッチはONとOFFしかできないのに、どうやって正弦波を作っているのか。
答えを先に言うと、インバータは正弦波を作っていません。出しているのは矩形波です。それでもモータは滑らかに回ります。今回はその仕組みを整理します。
インバータの出力電圧は、正弦波ではない
インバータの出力波形を見ても、正弦波は出てきません。
出ているのは、幅の違うパルスが並んだ矩形波です。理由は単純で、スイッチング素子にはONとOFFの2つの状態しかないからです。中間の電圧を出す機能を持っていません。
出せるのは、直流電圧そのままか、ゼロか。この2つだけです。
それでもモータが滑らかに回る理由
電圧は矩形波ですが、モータに流れる電流は、正弦波に近い滑らかな波形になります。
理由は、モータの巻線がコイルだからです。コイルには、電流の変化を妨げる性質があります。
- 電流を流し始めても、すぐには増えない。少しずつ上昇する
- 電流を止めようとしても、すぐには減らない。少しずつ下降する
矩形波ではONとOFFが繰り返されますが、ONの間に電流はじわじわ上がり、OFFになると下がり始める。しかし下がりきる前に、次のONが来る。これを高速で繰り返すことで、電流は角のない滑らかな波形になります。
ただし、これはスイッチ1組から見た話です。モータの2本の端子の間には、2組のスイッチの電位差が加わります。片方をプラス側、もう片方をゼロ側にすれば、インバータ内部の直流電圧 Vdc がそのまま加わって +Vdc、逆にすれば −Vdc になる。両方を同じ側にそろえれば電位差はゼロになり、端子の間の電圧も0Vです。図で電圧が0になっている区間は、この状態にあたります。だから線間(端子と端子の間)で見ると、+Vdc、0、−Vdc の3つが加わり、全体として交流になります。巻線1相だけ(中性点から見た電圧)で見ると段の数はもっと増えますが、ここでは線間で考えます。

そして、ONの時間が長いほど、モータに電圧が加わっている時間が長くなります。その結果、電流が上がる時間も長くなるので、電流は大きくなる。パルスの幅で電圧の加わり方が決まり、その結果として電流の大きさが決まるということです。
ということは、パルスの幅を時間とともに変えていけば、加わる電圧も時間とともに変わります。幅を正弦波の形に沿って変えていけば、電圧の加わり方が正弦波をなぞり、流れる電流も正弦波に近づく。
この「パルスの幅を変調する」という動作が、PWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調) という名前の由来です。
キャリア周波数は、実務で調整する設定です
ここまで「ONとOFFを高速で繰り返す」と書いてきましたが、では実際にどれくらいの速さで繰り返しているのか。
この1秒間あたりのスイッチング回数を、キャリア周波数といいます。インバータのパラメータで設定できる項目です。設定できる範囲は機種によって違い、この記事では1kHz〜15kHz程度を目安に話を進めます(メーカーの仕様では確かめていません)。
たとえばキャリア周波数5kHzなら、1秒間に5000回ON/OFFを繰り返していることになります。出力周波数が50Hzのとき、正弦波1周期(20ms)のあいだに刻まれるパルスは100個。低速運転時は出力周波数が下がるぶん、1周期あたりのパルス数はさらに増えます(出力5Hzなら1000個)。
なお、ここでいうパルスの幅は、同じキャリア周波数のもとで比べたときの話です。キャリア周波数を上げるとパルスは細くなりますが、OFFの時間も同じ割合で短くなるため、電圧の大きさは変わりません。
人間の耳に聞こえるのは、一般に20Hz〜20kHz程度とされています。キャリア周波数がこの範囲にあると、音として聞こえます。インバータで回しているモータから「キーン」という音がするのは、これが理由です。上げていくと音が高くなり、やがて聞こえにくくなります。
- 上げると、電流の波形がより滑らかになり、モータの電磁騒音が下がります。一方で、高周波の漏れ電流が増え、漏電遮断器の不要動作を招きやすくなるのが難点です。
- 下げると、スイッチング素子の発熱と、高周波の漏れ電流が減ります。そのかわり、モータの騒音は大きくなります。
つまりトレードオフです。静かにしたいから上げる、という判断だけでは、素子の発熱と漏電遮断器の側で問題が出ます。発熱の側について、安川電機のFAQには、同社のインバータ(GA700)でキャリア周波数を初期設定より上げるとインバータの定格出力電流が下がり(ディレーティング)、上げる前と同じ定格の電流で運転すると過負荷の異常で止まる、とあります。
漏電遮断器の側は、既設のモータをインバータに替えたときに問題になりやすい点です。安川電機のFAQ(同社のインバータ共通の回答)は、まずインバータ用の高周波対策をした漏電遮断器を使うことを勧めています。既設の遮断器をそのまま使う場合は、感度電流を200mA以上にし、キャリア周波数を2.5kHz以下にする、としています。ただし感度電流を上げれば、感電から人を守る働きはそのぶん弱くなります。同じFAQも、感度電流の選び方は漏電遮断器のメーカーに相談するよう書いています。(漏電遮断器そのものの働きは、記事「配線用遮断器は、地絡を地絡として見ていない」で説明しています)
設定を決めるときに確かめるのは、次の3つです。
- 音が問題になる場所かどうか(人の耳に聞こえる高さの音が出ていないか)
- そのインバータで、キャリア周波数を上げたときに出力電流を下げて使う必要があるか(取扱説明書で確かめる)
- 上流の漏電遮断器が、インバータ用の高周波対策品かどうか。そうでなければ、感度電流はいくつか
まとめ
- インバータの出力電圧は正弦波ではなく、幅の違うパルスが並んだ矩形波
- スイッチング素子にはONとOFFしかないので、中間の電圧は出せない
- それでもモータの電流が滑らかになるのは、コイルが電流の変化を妨げるから
- パルスの幅で電圧の加わり方が決まり、その結果として電流の大きさが決まる。幅を正弦波の形に沿って変えれば、電流も正弦波に近づく
- キャリア周波数は、騒音と、素子の発熱・漏れ電流(漏電遮断器の不要動作)とのトレードオフで決める、実務上の設定項目
V/f一定制御では、周波数に応じて電圧も変えます。(その理由は記事「V/f一定制御とトルクブースト」で説明しています)その電圧を実際に作っているのが、ここで説明したPWMです。
計算の前提と途中式
- キャリア周波数5kHz・出力50Hzで1周期あたりのパルス100個、出力5Hzで1000個は、キャリア周波数を出力周波数で割った値です(5000 ÷ 50、5000 ÷ 5)
- 1周期20msは、1 ÷ 50Hz です


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