誘導電動機は、回転磁界より少し遅れて回ります。この速度差が「すべり」です。そして、すべりが大きいほど二次電流が増え、トルクが増えます。(この仕組みは記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で詳しく説明しています)
そう聞くと、こう考えたくなります。
「では、止まっている状態(すべり最大)のとき、いちばん大きなトルクが出るはずだ」
ところが実際は違います。止まっているモータに電源を入れると、定格の5〜8倍もの電流が流れるのに、出てくるトルクは定格の1.5倍程度しかありません。電流は6倍なのに、力は1.5倍。明らかに割に合っていません。
今回はここを解きます。トルク特性曲線を1枚読めるようになると、この「ちぐはぐ」の理由も、停動トルクという言葉の意味も、インバータで始動すると何が変わるのかも、まとめて説明がつきます。
まず曲線を見る
これが誘導電動機のトルク特性曲線です。

読み方は次の通りです。
横軸はすべり s です。左端が s = 1、つまり回転子が止まっている状態。右端が s = 0、同期速度です。
上のグラフがトルク、下のグラフが一次電流です。どちらも定格を100%とした比率で表しています。
モータが始動して加速していくと、いまの状態を表す点(動作点といいます)は、左から右へ動いていきます。モータの出すトルクが、負荷に必要なトルクより大きい間は、その差が回転を速める力になるからです。
やがて、モータの出すトルクと、負荷に必要なトルクが等しくなります。そこで加速は止まり、回転数はその値で落ち着きます。
この落ち着いた状態に限り、上のグラフの縦軸は「いま負荷が要求しているトルク」として読めます。加速している間は、モータのトルクのほうが負荷より大きいので、縦軸は負荷の値ではありません。
曲線の上に、3つの点があります。
| 点 | すべり | 意味 |
|---|---|---|
| 始動 | s = 1 | 電源を入れた瞬間。回転子はまだ止まっている |
| 停動 | s ≒ 0.25 | トルクが最大になる点 |
| 定格 | s ≒ 0.04 | 銘板に書かれた運転状態 |
定格点は、曲線のどこにあるか
まず驚いてほしいのが、定格点の位置です。
s = 0.04。曲線のいちばん右の端、ほとんど同期速度のところにあります。モータは普段、この曲線のごく狭い右端だけを使って運転しています。
そして「負荷が重くなるとすべりが大きくなり、トルクが増える」という関係は、この右端の、ほぼ直線になっている部分の話です。
曲線の右端を見てください。s = 0 から s = 0.04 あたりまでは、トルクがすべりにほぼ比例して立ち上がっています。負荷が2倍になればすべりも約2倍。この範囲では、すべりとトルクは素直に比例します。
普段のモータは、この直線部分の上を行ったり来たりしているだけです。
停動トルク ― 曲線の頂点
すべりをさらに大きくしていくと、トルクは増え続けるでしょうか。
図1を見ると、そうではありません。s ≒ 0.25 のあたりで頂点を迎え、それより先はむしろ下がっていきます。
この頂点が、停動トルクです。そのモータが出せる最大のトルクであり、これを超える負荷をかけると、モータは減速し、さらにトルクが落ち、加速度的に速度を失って止まります。
「停動」という名前は、ここから来ています。頂点を越えた先は、負荷が重くなるほどトルクが減るという、坂を転げ落ちる領域だからです。
なぜ頂点ができるのか
回転子の導体1本ぶんの回路は、抵抗とリアクタンスが直列につながっただけの、部品2つの回路だと考えられます。ここに、すべりに応じた電圧が誘起されます。

左が、回転子の側から見た形です。すべりが大きくなると、2つのものが同時に増えます。
- 誘起電圧 s E₂ ── 導体が磁界を横切る速度が上がるので、電圧が増える
- リアクタンス s x₂ ── 二次側に流れる電流の周波数がすべり周波数(すべり × 電源周波数)になるので、X = 2πfL の通り、周波数に比例してリアクタンスが増える
電圧が増えれば、電流は増えます。しかしリアクタンスが増えれば、電流は抑えられます。増やす働きと抑える働きが同時にかかり、つり合った点が曲線の頂点です。
電圧が下がると停動トルクはもっと下がる
トルクは電圧の2乗に比例します。磁束が電圧に比例し、二次電流も電圧に比例するので、掛け合わせると2乗になります。
つまり電源電圧が10%下がると、停動トルクは 0.9² = 81% まで落ちます。
電流は6倍なのに、トルクは1.5倍
ここが、この記事の核心です。
図1の下段を見てください。始動時の電流は定格の611%。一方、上段のトルクは149%。
電流が6倍なら、トルクも6倍とはいかないまでも、それに近い値が出そうなものです。なぜ1.5倍で止まるのか。
理由は3つあります。そのうち2つは、電流の話をいくら追いかけても出てきません。
理由1:電流の向きがずれている(二次力率)
トルクを生むのは、電流そのものではありません。磁束と同じタイミングで流れている電流の成分だけです。
図2の左を思い出してください。始動時は s x₂ が大きくなり、二次回路はリアクタンス主体になります。リアクタンスは電流の向きを遅らせます。

定格運転では、電流は磁束とほぼ同じ向きを向いています(ずれは5度)。ほぼ全部がトルクになります。
始動時は、63度も傾きます。矢印の長さは同じでも、まっすぐな成分は半分以下しか残りません。
この「まっすぐな成分の割合」が二次力率です。定格運転時が0.997なのに対し、始動時は0.447まで落ちます。
つまり、電流が6倍あっても、そのうちトルクになる向きの成分は半分以下しかありません。
定格運転時がほぼ1.0なので、始動時の値をそのまま「何倍になったか」として扱えます。
理由2:磁束が減っている
もうひとつあります。始動時は、磁束そのものが減っています。
定格の6倍の電流が固定子巻線を流れると、巻線の抵抗とリアクタンスで大きな電圧降下が生じます。電源電圧から、その降下分が引かれた残りが、磁束を作る電圧になります。
これは、低い周波数で起きることとまったく同じ構造です。低周波では周波数が低いために電圧降下の比率が問題になり、ここでは電流が大きいために問題になっています。(低周波側の話は記事「V/f一定制御とトルクブースト」で扱っています)
同じモデルで計算すると、始動時の磁束は定格時の約55%まで落ちています。
3つを掛け合わせる
電流 約 6.1 倍
二次力率 約 0.45 倍
磁束 約 0.55 倍
6.1 × 0.45 × 0.55 ≒ 1.5 倍
これが、始動トルクが150%程度にとどまる理由です。電流だけを見ていても、この答えは絶対に出てきません。
トルク ∝ 磁束 × 二次電流 × 二次力率
記事「誘導電動機はなぜ回るのか」では、話を簡単にするために二次力率を省いた形にしています。始動のように電流の位相が大きく遅れる領域を扱うときは、この項が効いてきます。
なお、始動時の大電流で系統の電圧そのものが下がると、先ほどの2乗の関係でトルクはさらに落ちます。始動できるかどうかが電源の強さに左右されるのは、これが理由です。
二次抵抗を変えると、曲線は横に動く
始動トルクが足りないとき、どうすればよいか。
図1をもう一度見ると、答えは明らかです。頂点を始動側に寄せればいい。停動点が s = 1 に来れば、始動した瞬間に最大トルクが出ます。
これができます。二次抵抗を大きくすればよいのです。

図4を見ると、二次抵抗を大きくするほど、同じトルクを出すすべりが、抵抗に比例して大きいほうへずれていきます。二次抵抗を2倍にすれば、同じトルクが出るすべりも2倍。曲線全体が、横に引き伸ばされるように動きます。
この「すべりが二次抵抗に比例してずれる」という性質を、比例推移といいます。名前がそのまま中身になっています。
なぜ、すべりだけがずれるのか
前の節で、頂点は「すべりが増えると誘起電圧が増える働き」と「同時にリアクタンスが増えて電流を抑える働き」がつり合う点だと書きました。つり合う条件は、r₂ ÷ s が回路のリアクタンスとほぼ等しくなることです。
ここに出てくるのは r₂ そのものではなく、r₂ ÷ s という組み合わせです。だから二次抵抗を2倍にすれば、同じ状態は2倍のすべりで起きます。頂点も、同じトルクを出す点も、すべて2倍のすべりへずれます。
そして、つり合った時点での回路の状態は、二次抵抗が何倍でも同じです。流れる電流も、出るトルクも変わりません。実際に計算すると、二次抵抗を1倍・2倍・4倍にしても、頂点でのトルクは310%、そのときの電流は440%で、すべて同じ値になります。
つまり二次抵抗が変えるのは、その最大トルクがどのすべりで出るかだけです。トルクの大きさそのものは、電圧とリアクタンスで決まっています。
巻線形とかご形
二次抵抗を外から変えられるのが巻線形です。回転子の巻線をスリップリングで外に引き出し、外部抵抗をつないで始動し、加速したら抵抗を減らしていく。始動トルクを最大にしつつ、運転時の効率も確保できます。
一方かご形は、回転子が導体棒と端絡環だけなので、外から抵抗を変えられません。
では、かご形はどうやって始動トルクを稼いでいるのか。正確には、運転時の効率を落とさずに始動トルクを稼ぐ、という話です。二次抵抗を単純に大きくすれば始動トルクは増えますが、そのぶん運転時のすべりも増えて効率が落ちてしまいます。
溝の形で稼いでいます。
先ほど、二次側の周波数はすべりによって変わると書きました。始動時は電源周波数そのもの、運転時は数Hz。
ここで、溝の奥にある導体ほど、漏れリアクタンスが大きくなります。そして図2で見た通り、リアクタンスは周波数が高いほど効いてきます。つまり二次周波数が高いと、電流は溝の奥を避けて外側に偏ります。
そこで、導体棒を深く細長い形にしておく(深溝形)、あるいは外側と内側に2段の導体を持たせる(二重かご形)と、次のようになります。
- 始動時(二次周波数が高い):電流が外側に偏り、電流の通る断面が実質的に狭くなる → 抵抗が大きい
- 運転時(二次周波数が低い):電流が断面全体に流れる → 抵抗が小さい
深溝形では、これが1本の導体の中で起きます。これを表皮効果といいます。二重かご形では、外側と内側のどちらのかごに流れるかという形で起きます。
つまり、回転子が自分の周波数を見て、いわば勝手に比例推移をやっているようなものです。巻線形が外部抵抗の切り替えでやっていたことを、溝の形だけで連続的に実現しています。
なぜ、いま巻線形をあまり見ないのか
二次抵抗を変えられるということは、速度も変えられるということです。かつては、巻線形に外部抵抗をつないで速度を調整する方法が、可変速の主要な手段のひとつでした。
ただしこの方法は、外部抵抗で熱を捨てて速度を落としているので、遅く回すほど効率が落ちます。
いま、その役目はインバータが引き受けています。インバータは電源の周波数そのものを変えられるので、抵抗で熱を捨てる必要がありません。しかも、二次抵抗を変えられない普通のかご形モータで可変速ができます。
スリップリングもブラシもないかご形が可変速の主役になったのは、これが理由です。
インバータで始動すると、何が変わるか
ここまでの話を、インバータの側から見直します。
トルクを決めているのは、すべりそのものではなく「すべり周波数」(すべり × 周波数)です。(なぜすべりそのものではないのかは、記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で説明しています)
60Hz運転なら、
- 始動点(s = 1)は、すべり周波数 60Hz
- 停動点(s = 0.25)は、すべり周波数 15Hz
- 定格点(s = 0.04)は、すべり周波数 2.4Hz
図1の横軸を、すべり周波数に置き換えて描き直したのが次の図です。図1と同じく、左へ行くほど回転子が止まった状態に近づきます。

商用電源で直接始動するということは、すべり周波数60Hzという、停動点をはるかに通り過ぎた場所からスタートするということです。図5でいちばん左、いちばん割の悪い領域です。
ではインバータで、5Hzから始動するとどうなるか。
回転子は止まっているので、すべりはやはり s = 1 です。しかし、すべり周波数は 5Hz です。停動点(60Hz運転なら15Hz付近)よりも、ずっと手前。曲線の頂点に向かって登っていく側にいます。
同じモデルで計算すると、こうなりました。
| 始動のしかた | 電流 | トルク |
|---|---|---|
| 商用電源で直入始動(すべり周波数60Hz) | 611% | 149% |
| インバータで5Hzから始動(V/fの比のまま電圧を下げる) | 171% | 140% |
| インバータで5Hzから始動(トルクブーストで磁束を定格に保つ) | 206% | 204% |
真ん中の行を見てください。トルクは直入始動とほぼ同じなのに、電流は3分の1以下です。
インバータが始動電流を抑えられるのは、電流を無理に絞っているからではありません。そもそも曲線の割のいい場所から始動しているからです。
図5で、5Hz運転の2本が青い線とずれていることに注目してください。周波数を下げても、一次抵抗だけは変わりません。そのため、V/fの比を守っただけの緑は磁束が足りず、青よりはっきり下に落ちます。電圧を上乗せした赤は、磁束が戻るので青とほぼ同じ高さまで回復します。厳密には青よりわずかに上に出ますが、これは青い曲線自身も、すべりが大きい側では磁束が少し落ちているためです。この差が、次のトルクブーストの話につながります。
もう一段、下げられます
さらに周波数を下げて、すべり周波数を定格と同じ2.4Hzにすれば、電流もトルクも定格と同じ100%になります。
ただしこれは、磁束が定格どおりに保たれている場合の話です。
低い周波数では、リアクタンスが小さくなるので、電圧はほとんど抵抗だけで分け合われます。このモデルでは一次抵抗0.05に対して二次抵抗0.25。つまり電圧の6分の1が一次抵抗に食われ、磁束を作るのに使えるのは残りの約83%という計算になります。
先ほど「トルクは電圧の2乗に比例する」と書きました。磁束についても同じです。83%の磁束では 0.83² ≒ 0.69。磁束が17%足りないだけで、トルクは3割落ちます。
上の表の2行目と3行目の差が、これです。
だから、電圧を上乗せして磁束を取り戻してやる必要があります。これがトルクブーストです。インバータの低速トルクにトルクブーストが要る理由は、ここにあります。詳しくは記事「V/f一定制御とトルクブースト」で扱っています。
直入始動は「電流6倍で、トルク1.5倍」。インバータの5Hz始動は「電流1.7倍で、トルク1.4倍」。
モータは同じです。違うのは、どれだけの速度差から始めるかだけです。
まとめ
- 普段の運転は、すべり数%というごく狭い範囲しか使っていない。その範囲ではトルクはすべりにほぼ比例する
- 曲線の頂点が停動トルク。そのモータが出せる最大のトルクで、これを超えると止まる
- 頂点ができるのは、すべりが大きくなると二次側のリアクタンスも増えるから
- 始動時に電流が6倍でもトルクが1.5倍にとどまるのは、二次力率が0.45に落ち、磁束も55%に落ちるから
- トルクは電圧の2乗に比例する。電圧が10%下がれば停動トルクは81%になる
- 二次抵抗を増やすと、同じトルクを出すすべりが抵抗に比例してずれる(比例推移)。頂点の高さは変わらない
- かご形は、二次周波数が高いと電流が溝の外側に偏る性質を使って、同じことを連続的に実現している(深溝形・二重かご形)
- かつては巻線形の二次抵抗で速度を変えていたが、抵抗で熱を捨てる方式だった。いまはインバータが周波数を変えて同じことをしている
- インバータ始動は、すべり周波数の小さい「割のいい」場所から始動している。トルクは直入始動とほぼ同じで、電流は3分の1以下
- ただし低い周波数では一次抵抗に電圧を食われて磁束が落ちる。それを補うのがトルクブースト
この記事の数値について
本文のグラフと数値は、かご形誘導電動機の簡易等価回路(1相・二次換算、励磁回路は無視)で計算したものです。条件は次の通りです。
電圧 V = 1.0、一次抵抗 r₁ = 0.05、二次抵抗 r₂ = 0.25、一次漏れリアクタンス x₁ = 0.5、二次漏れリアクタンス x₂ = 0.5(いずれも同じ基準にそろえた値)。定格すべり s = 0.04 の点を100%として正規化しています。
インバータ始動の数値は、リアクタンスと電圧を周波数に比例させ、一次抵抗だけを一定として計算し直したものです。60Hzの曲線をそのまま読んだ値ではありません。

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