誘導電動機はなぜ回るのか ― 回転磁界と「すべり」の話

誘導電動機はなぜ回るのか ― 回転磁界と「すべり」の話 電気の仕事と基礎知識

60Hzの4極モータなら、回転速度は毎分1800回転になるはずです。ところが銘板を見ると、1730rpmと書かれています。

計算と合わない。しかし、これは誤差でも印字ミスでもありません。誘導電動機は、原理上どうしても計算値より遅く回ります。

その理由が「すべり」です。今回は、固定子が作る回転磁界と、回転子がそれより遅れて回る理由を整理します。

誘導電動機とはどういうモータか

構造は単純で、外側の固定子と、内側の回転子でできています。

特徴的なのは、回転子に電源を繋がないという点です。電気を入れるのは固定子だけ。

では回転子はどうやって力を出すのか。固定子が作る磁界によって、回転子の中に電流を発生させています。電磁誘導で電流を「誘導」するので、誘導電動機と呼ばれます。

回転子に電源を繋がなくていいので、構造が簡単で、壊れにくく、安価に作れる。産業用モータの大半がこの方式なのは、この扱いやすさが理由です。

この記事の前提

誘導電動機には、かご形と巻線形があります。この記事では、もっとも一般的なかご形を前提に説明します。巻線形は回転子側にも巻線を持ち、スリップリングを通して外部に端子を引き出しますが、そちらは別記事で扱います。

固定子に三相を流すと、磁界が回る

誘導電動機のすべての出発点が、これです。

固定子には、三相分の巻線が 空間的に120度ずつずらして 配置されています。そこに、時間的に120度ずつ位相のずれた 三相交流を流す。

すると、巻線は一切動いていないのに、磁界だけが回り始めます。これを回転磁界といいます。

なぜ回るのか

1つの巻線が作る磁界は、回りません。その巻線の軸の方向を向いたまま、電流の大きさに応じて強くなったり弱くなったり、向きが反転したりするだけです。

しかし三相を合成すると、話が変わります。

  • ある瞬間、U相の電流が最大なら、合成された磁界はU相の巻線の方向を向く
  • 少し時間が経つと、U相の電流が減り、別の相の電流が増える。合成磁界はその中間へ向きを変える
  • さらに時間が経つと、その相が最大になる。合成磁界はそちらの方向を向く

これを繰り返すと、合成磁界の向きが少しずつ回っていきます。

電光掲示板の文字が流れて見えるのと同じです。LEDそのものは動いていませんが、点灯する場所が順に移っていくので、文字が動いて見える。回転磁界も、巻線は固定されたままで、磁界の強い場所が順に移動しています。

三相の電流波形と、6つの時刻における合成磁界の向きを並べた図(2極機)
三相の電流波形と、6つの時刻における合成磁界の向き(2極の場合)。巻線は動いていないのに、合成磁界だけが回っていく。なお合成磁界の大きさは常に一定で、向きだけが変わる。電気角とは、電流波形の位相を角度で表したもので、1周期が360度にあたります。

なお、いま説明した120度ずつの配置は、2極の場合です。極数が増えると巻線の配置が変わり、磁界の回り方も変わります。この違いが、あとで出てくる同期速度の式に効いてきます。

回転子はなぜ回るのか

回転磁界ができたところで、回転子に何が起きるかを見ます。

磁界の中で導体が動くと、その導体に電圧が生じます。

なぜそうなるのか。導体の中には自由電子があります。この電子が磁界の中を動くと、磁界から力を受けて、導体の片側に押し寄せられます。電子が片方に集まれば、そちら側がマイナス、反対側がプラスになる。つまり導体の両端に電位差、すなわち電圧が生じます。

これは発電機とまったく同じ原理です。誘導電動機の回転子は、電動機の一部でありながら、内部では発電機として働いています。

向きはフレミングの右手の法則で決まり、大きさは次の式で表されます。

E = B ℓ v

  • E:導体に生じる電圧〔V〕
  • B:磁束密度、つまり磁界の強さ〔T〕
  • ℓ:磁界の中にある導体の長さ〔m〕(小文字のエル)
  • v:導体と磁界の相対速度〔m/s〕

vが速度です。動いていなければ電子は力を受けないので、電圧は生じません。ここが後で効いてきます。

生じた電圧によって、回転子に電流が流れます。回転子の導体は閉じた回路になっているので、電圧がかかれば電流が流れる。

そして、電流が流れている導体が磁界の中にあると、力が生じます。これがフレミングの左手の法則です。

F = B I ℓ

  • F:導体が受ける力〔N〕
  • B:磁束密度〔T〕
  • I:導体に流れる電流〔A〕(大文字のアイ)
  • ℓ:導体の長さ〔m〕(小文字のエル)

この力が回転子を回します。

回転子が回るまでの順序

回転磁界と回転子の間に速度差がある → 導体に電圧が生じる(フレミングの右手の法則) → 電流が流れる → 力が生じて回転子が回る(フレミングの左手の法則)

では、その回転磁界は、どれくらいの速さで回っているのか。

磁界が回る速さ ― 同期速度

回転磁界が回る速さを、同期速度といいます。

Ns = 120f / p 〔rpm〕

  • Ns:同期速度〔rpm〕
  • f:電源周波数〔Hz〕
  • p:極数

60Hzの4極なら、120 × 60 ÷ 4 = 1800rpm です。

120は、覚えて使う数字で構いません。単位を揃えるために出てくる係数で、意味を知らなくても計算に支障はありません。

120はどこから来たのか

2極機なら、電流が1周期する間に磁界がちょうど1回転します。ところが4極機では、巻線を2組配置するため、電流が1周期しても磁界は半回転しかしません。一般に、磁界は電流1周期あたり1極対(N極とS極のひと組)ぶんだけ回ります。

極数がpなら極対数はp/2なので、1秒あたりの回転数は f ÷(p/2)= 2f/p 回。rpmは1分あたりの回転数なので60を掛けて、Ns = 60 × 2f/p = 120f/p となります。

つまり120は、60(秒を分に直す)× 2(極数を極対数に直す) です。

極数は、多くのモータで銘板に書かれています。書かれていなくても、定格回転数から見当がつきます。60Hzで1730rpm付近なら4極、1150rpm付近なら6極といった具合です。

なぜ「付近」なのか。回転子が回るには磁界との速度差が必要でした。その差が、ここに現れています。

同期速度では回れない ― すべり

ここで、回転子が回る仕組みで出てきた E = B ℓ v の v が効いてきます。

もし回転子が同期速度と同じ速さで回ったら、どうなるか。

回転子から見て、回転磁界は止まって見えます。並走している車が止まって見えるのと同じです。相対速度がゼロになる。

すると E = B ℓ v の v がゼロなので、電圧が生じません。電流も流れず、力も出ない。

つまり誘導電動機は、原理上かならず同期速度より遅く回る必要があります。遅れているからこそ速度差が生まれ、その速度差が電圧を生み、トルクを生む。

この速度差を、同期速度に対する比率で表したものがすべりです。

s = (Ns − N) / Ns

  • s:すべり
  • Ns:同期速度〔rpm〕
  • N:実際の回転数〔rpm〕

すべりは誤差ではなく、トルクを出すための必要条件です。

無負荷ならすべりはゼロになるのか

なりません。無負荷でも、軸受の摩擦や風損があります。それに打ち勝つだけのトルクは必要なので、すべりはわずかに残ります。ゼロに近づきますが、ゼロにはなりません。

同期電動機はなぜ同期速度で回れるのか

同期電動機は、回転子自身が磁石(または直流で励磁した電磁石)になっています。回転子が最初から磁極を持っているので、電磁誘導で電流を作る必要がありません。だから回転磁界に引き付けられる形で、同じ速さで回れます。

誘導電動機が遅れて回るのは、回転子に磁極を持たず、電磁誘導で電流を発生させているからです。ここが2つのモータの決定的な違いです。

ただし同期電動機は、停止した状態から回転磁界に追従できません。だから、そのままでは始動できず、始動には別の仕組みが必要になります。

だから銘板は1730rpmになる

冒頭の疑問に戻ります。

  • 同期速度 Ns = 1800rpm
  • 銘板の回転数 N = 1730rpm
  • すべり s = (1800 − 1730) / 1800 = 0.039 → 約3.9%

定格負荷で運転したとき、約4%のすべりが生じているということです。汎用モータでは、定格時のすべりは数パーセント程度に収まります。

つまり銘板の回転数は、そのモータが定格負荷で回ったときの実際の速度を示しています。同期速度ではありません。

負荷が変わると、すべりも変わる

すべりは固定値ではありません。

軽い負荷なら、必要なトルクが小さいので、すべりも小さい。同期速度の近くまで回ります。

負荷が重くなると、より大きなトルクが必要になります。すると回転子は遅れ、すべりが大きくなる。すべりが大きいほど相対速度が上がるので、電圧が上がり、電流が増え、トルクが増える。

すべりが最も大きくなるのは、始動の瞬間です。回転子が止まっているので N = 0、すべりは1(100%)になります。相対速度が最大になるため二次電流も最大になり、これが始動電流が定格の5〜8倍にもなる理由です。

ただし、これには限度があります。あるすべりを超えるとトルクは頭打ちになり、そこから先は逆に減り始めます。この最大値を停動トルクといい、これを超える負荷をかけるとモータは止まってしまいます。この「限度」がどこにあるのか、始動時のトルクはなぜ思ったより出ないのかは、別記事で扱います。

一次と二次 ― 変圧器と同じ関係

誘導電動機の説明では、「一次」「二次」という言葉が出てきます。これは変圧器と同じ呼び方です。

  • 固定子側の巻線 = 一次
  • 回転子側の導体 = 二次

一次に電流を流すと磁束ができ、その磁束が二次に電圧を誘起する。構造としては変圧器そのものです。

違いは1つで、変圧器は二次が静止していますが、誘導電動機は二次が回ります。回るぶん相対速度が変わるので、すべりという概念が必要になります。

かご形に巻線がないのに、なぜ二次なのか

かご形回転子には、巻線がありません。アルミや銅の棒が並んでいて、その両端を輪(端絡環)で繋いであるだけです。この形がリスかごに似ているので、かご形と呼ばれます。

それでも二次として働きます。理由は、二次に必要なのが「巻線の形」ではなく「電流が流れる閉じた回路」だからです。

導体棒と端絡環で、電流の通り道が閉じている。だから誘起された電圧で電流が流れる。短絡された二次巻線だと考えると分かりやすいと思います。

かご形回転子の模式図。円筒の周囲に並んだ導体棒(アルミや銅)の両端が端絡環でつながり、1周する閉じた回路になっている。
かご形回転子の構造。導体棒と端絡環がつながって、閉じた回路になっている。巻線はないが、電流が流れる道はできている。

トルクはどう決まるか

ここまでを踏まえると、トルクの式が読めます。

トルク ∝ 磁束 × 二次電流

磁束は、回転磁界の強さです。記事「V/f一定制御とトルクブースト」で扱った通り、電圧と周波数の比で決まります。

二次電流は、すべりによって決まります。すべりが大きいほど相対速度が上がり、電圧が上がり、電流が増える。

だから磁束を一定に保ったまま、同じすべり周波数(すべり × 周波数)で運転していれば、周波数を変えてもトルクは変わりません。

すべりではなくすべり周波数なのは、二次電流を決めているのが回転磁界と回転子の周波数差そのものだからです。言い換えると、回転数の差が同じなら同じトルクが出ます。60Hz運転で1800rpmに対して1730rpm(差70rpm)、30Hz運転で900rpmに対して830rpm(差70rpm)。すべりで見れば3.9%と7.8%ですが、この2つは同じトルクを出します。

インバータで速度を変えても力が落ちないのは、この関係があるからです。

まとめ

  • 誘導電動機は、回転子に電源を繋がず、電磁誘導で回転子に電流を発生させる
  • 三相を空間的にずらして配置し、時間的に120度ずれた電流を流すと、磁界が回る
  • 磁界と回転子の間に速度差があると、回転子の導体に電圧が生じ、電流が流れ、力が出る
  • その回転速度が同期速度 Ns = 120f/p。極数が多いほど、同期速度は遅くなる
  • 回転子が同期速度で回ると速度差がゼロになり、トルクが出なくなる
  • だから誘導電動機は必ず同期速度より遅く回る。この差がすべり
  • 固定子が一次、回転子が二次。かご形でも、閉じた回路になっていれば二次として働く
  • 銘板の回転数が計算値より小さいのは、定格負荷時のすべりを含んだ値だから
  • トルクは磁束と二次電流で決まる

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