死にボルト(42V)とは|語呂合わせだが、濡れた手から手なら42Vでも心室細動のおそれがある電流

濡れた手なら、42ボルトでも心室細動のおそれ ― 死にボルトと言われる理由 感電と安全

「42Vは死にボルト」は、「死・に」の語呂合わせだと言われます。日本電気協会が定めた許容接触電圧の表にも、42Vという数字は出てきません。

それでも、濡れた手を前提にすると、この語呂は外れていません。体に流れる電流を決めているのは人体の抵抗で、その抵抗は皮膚が乾いているか濡れているかで大きく変わります。

安全衛生マネジメント協会が公開している低圧電気取扱業務特別教育の教材が、人体の抵抗の値を示しています。この記事はその値から、乾燥時を10,500Ω(皮膚10,000Ω+内部500Ω)、濡れたときを500Ω(内部だけ)と置きました。同じ手から手の経路で、42Vは濡れていれば84mA、乾いていれば4.0mAです。

差は21倍です。 84mAは教材の表で心室細動のおそれがある領域に入り、4.0mAは同じ表の苦痛にも届きません。乾いていれば安全、という意味ではありません。同じ教材には、100Vの工具の漏電で、安全靴を履きコンクリート土間で作業していても死亡した例が載っています。死に至るほどの電流とは思えないケースもある、と書かれています。

濡れているかどうかが効くことは、統計にも現れています。仕事中の感電死亡災害を見ると、低圧によるものは87パーセントが6月から9月に起きています。高圧には、この偏りがありません。

84mAと4.0mAは、オームの法則の割り算だけで追えます。

「死にボルト」の42は、語呂合わせです

先に、数字の出どころをはっきりさせておきます。

安全衛生マネジメント協会が公開している低圧電気取扱業務特別教育の教材に、許容接触電圧という区分が載っています。この記事ではこれを「教材」と呼びます。教材によれば、日本電気協会の「低圧電路地絡保護指針」で定められた区分です。表のVはボルトです。

種別接触状態許容接触電圧
第1種人体の大部分が水中にある状態2.5V以下
第2種人体が著しく濡れている状態など25V以下
第3種通常の人体状態で、接触電圧が加わると危険性が高い状態50V以下
第4種危険性の低い状態、接触電圧が加わるおそれがない状態制限なし

42Vは、この表のどこにも出てきません。 25Vと50Vの間に、ぽつんと落ちている数字です。語呂以外の根拠を、私は確認できていません。

似た数字はあります。同じ教材によれば、国によっては人体に危険とならない程度の電圧を「安全電圧」と呼んでいて、ドイツとイギリスで24V、オランダで50Vだといいます。42という数字は、この幅のなかに収まる値です。

ただし、同じ教材は許容接触電圧にも安全電圧にも注意を添えています。いずれも電気の危険性を考慮したものであって、安全な電圧を保証しているという意味ではない、と。

許容接触電圧の表にも、安全電圧の例にも42はないので、「42Vが規格で決まっている」とは書けません。書けるのはこうです。語呂合わせだからといって、外れているとは限らない。

実際、濡れた条件で計算すると、心室細動のおそれがある範囲に入ります。その計算の前に、低圧の感電死亡災害がどれだけ、いつ起きているかを見ておきます。

感電による死亡の多くは、低圧で起きています

労働安全衛生総合研究所が、平成15年から24年までの10年間に起きた感電死亡災害173人を分析しています。厚生労働省の死亡災害データベースに基づくもので、すべて仕事中の災害です。 家庭での事故は入っていません。

電圧別に見ます。

区分死亡者数割合
低圧(交流600V以下)105人約61%
高圧(交流600Vを超える)56人約32%

低圧のほうが、多くなっています。

なお、出典が示しているのはこの2区分だけです。合計は161人で、173人との差の12人は示されていません。

これは「低圧のほうが危険だ」という意味ではありません

この数字には分母がありません。

高圧に近づく機会があるのは、電気を仕事にしている人か、送配電線のそばで作業する人に、ほぼ限られます。低圧は違います。工場の生産設備の多くも、現場の電動工具も、事務所の機器も低圧です。 電気を専門にしていない人も、毎日触っています。

触れた回数がまったく違う以上、1回触れたときの危険度を、この数字から比べることはできません。

同じ研究所は、低圧が多い理由を、高圧ほど危険性の認識が浸透しておらず、対策が必ずしも十分ではないことにあると考えられる、としています。

この数字が言っているのは、低圧でも死亡災害は起きている、ということです。

この記事が低圧を扱うのは、低圧が高圧より危ないからではありません。研究所の言う、危険性の認識の差があるからです。

それでも、低圧にだけ現れる偏りがあります

月別に見ると、低圧と高圧がはっきり分かれます。

低圧で亡くなった105人のうち、7月が26人、8月が37人。6月から9月の合計で91人、約87パーセントです。

一方、高圧には月に対する依存性が見られません。

同じ低圧どうしを月で比べるので、月別の偏りは分母の影響を受けにくいものです。低圧の電気は年中使われています。それなのに、死亡が夏に寄ります。

研究所も、安衛研ニュースNo.192で同じ論法をとっています。低圧電気は年中使用されているにもかかわらず夏季に感電死亡災害が多い、したがって夏季における低圧電気での死亡危険性は本質的に高いと考えられる、としています。

同じ号の、平成8年から17年の統計では、低圧の感電死亡災害の77パーセントが夏季(7月から9月)に集中し、夏季は冬季の19倍です。

夏に何が変わるのか。それを見るために、まず何が体を傷つけるのかを押さえます。

体に起きることを決めるのは、電圧ではなく電流です

感電で体に何が起きるかは、流れた電流の大きさで決まります。電圧そのものではありません。

さきほどの教材は、電流と反応の目安をこう示しています。表には交流・直流の別が書かれていません。この記事は交流の目安として扱います。 単位はミリアンペア(mA)で、1000ミリアンペアが1アンペアです。

電流反応
1mA電流を感知する程度
5mA苦痛を伴う
10mAけいれんで身体の自由が失われる
20mA呼吸筋のけいれんで呼吸困難になる
50mA意識喪失、心室細動のおそれ
100mA心室細動により、適切な処置が遅れると死に至る

研究所の解説によれば、心室細動というのは、心臓がけいれんを起こしたような微細な動きになる状態です。血液を送り出す働きが失われ、数分続くと死に至ります。

10mAの行は「けいれんで身体の自由が失われる」です。この行には、あとの100Vの計算で戻ります。

ただし、決まるのは電流の大きさだけではありません。同じ教材は、受傷の程度に影響する要因として、通電した電流、通電した時間、体内を流れた経路、電流の種類の4つを挙げています。同じ電流でも、長く流れれば重くなります。

電流の種類についても、覚えておく価値のある記述があります。直流は交流より感知電流が高く、同じ条件なら被害が少ない。そして交流では15Hzから1000Hzが最も危険で、商用周波数の50Hz・60Hzは危険な周波数帯にあたるとされています。

日本の商用電源は50Hzと60Hzですから、いちばん危険とされる帯のなかにあります。

電流はオームの法則で決まります。

電流 = 電圧 ÷ 抵抗

電圧が同じでも、抵抗が変われば電流は変わります。そして人体の抵抗は、一定ではありません。

人体の抵抗は、濡れると桁が変わります

人体の抵抗は、大きく2つに分かれます。皮膚の表面の抵抗と、体の内部の抵抗です。

内部抵抗は、手から手、あるいは手から足の経路で約500Ωとされています。感電の危険を考えるときは最悪の場合を想定するため、この値が一般に使われます。この記事では、この500Ωは濡れても変わらないものとして扱います。

変わるのは皮膚のほうです。

教材によれば、冬季など乾燥しているときの皮膚表面の抵抗は10,000Ω以上とされています。夏場の作業などで汗や雨でぐっしょり濡れているような場合は、極端に低下することもあります。

労働安全衛生総合研究所も、汗や水などで皮膚が濡れていると乾燥時と比べて1桁以上電気抵抗が低くなることが分かっている、としています。

この記事では、次の2条件で計算します。

条件抵抗
乾燥(皮膚10,000Ω + 内部500Ω)10,500Ω
完全に濡れている(内部500Ωだけ)500Ω

21倍です。

この差は、皮膚の抵抗を数えるかどうかで生まれています。濡れた条件では、皮膚の抵抗を数えていません。

この置き方について、2つ断っておきます。

一つは、乾燥側で皮膚を1か所ぶんしか数えていないことです。 電流は体に入る側と抜ける側の両方で皮膚を通るので、本来は2か所あります。

もう一つは、濡れ側の皮膚をゼロと置いたことです。 教材が書いているのは「極端に低下することもある」まで、研究所が書いているのは「1桁以上低くなる」までで、ゼロになるとは書かれていません。 ゼロと置いたのは、この記事の判断です。

どちらも抵抗を小さく見積もる置き方で、電流は多めに出ます。教材が示す「10,000Ω以上」も、下限の値です。

乾燥時と濡れたときの人体抵抗を、2段に並べて比べた図。上段は左から、皮膚10,000Ω、体の中500Ω、その右に数えていない側の皮膚を示す点線の箱。合計10,500Ωで、42Vを割ると4.0mA。下段は同じ並びで、左の皮膚が「濡れて、ほぼ0」になり、残る500Ωだけで合計500Ω。42Vを割ると84.0mA。図のいちばん右に、上下の合計をつなぐ21倍の矢印。
21倍の差を作っているのは、左の皮膚の箱ひとつです。右の点線の箱は、どちらの段でも数えていません。

42Vは、濡れていれば84mA、乾いていれば4.0mA

いまの2つの抵抗に、電圧を当てていきます。電圧はいずれも交流です。

電圧乾燥 10,500Ω濡れ 500Ω
25V2.4mA50.0mA
42V4.0mA84.0mA
50V4.8mA100.0mA
100V9.5mA200.0mA
200V19.0mA400.0mA

84mAは、心室細動のおそれがある50mAと、100mAの間

42V、濡れた状態で84mA。

電流と反応の表と突き合わせます。50mAが意識喪失と心室細動のおそれ、100mAが心室細動により、適切な処置が遅れると死に至る、でした。84mAは、その2つの間に落ちます。

同じ42Vでも、乾いていれば4.0mAです。感知電流の1mAは超えますが、苦痛を伴う5mAには届きません。この計算では、感じる程度にとどまります。

同じ電圧で、心室細動のおそれがある側と、感じても苦痛には届かない側に割れます。 同じ42Vを分けているのは、濡れているかどうかです。

研究所が、低圧の感電死亡災害が夏に多い要因の一つと考えているのも、ここです。

死に至るとは思えない条件でも、死亡した例があります

ここで止めると、危ない読み方が残ります。「乾いていれば大丈夫」です。

同じ教材に、次の記述があります。100V工具の漏電が原因の感電災害で、安全靴を履き、コンクリート土間の上で作業していたにもかかわらず死亡している例がある、と。教材はこれを、死に至るほどの電流とは思えないケースとして挙げています。

抵抗の想定は、あくまで想定です。実際の皮膚の状態、通電した経路、通電した時間で結果は変わります。同じ教材は、健康状態も影響することが考えられる、としています。

この記事の数字は目安の計算であって、あなたの体の値ではありません。 計算は危険の大きさを掴むためのものです。安全を保証する数字ではありません。

経路が変われば、同じ電圧でも変わります

いま挙げた要因のうち、経路は数字で追えます。

教材は、体の中の抵抗を経路ごとの比で示しています。手から手(手から足)を100とすると、手から胸は45。 手から手が500Ωなら、手から胸は約225Ωです。教材が文章で例に挙げているのは、この1組です。

この225Ωで、42Vをもう一度割ってみます。

42 ÷ 225 = 186.7mA

手から手なら84mAだったものが、経路が変わるだけで処置が遅れると死に至るとされる100mAを超えます。

同じ電圧、同じ濡れた状態でも、電気が体のどこを通ったかで変わります。 そして、どこを通るかは選べません。

濡れていれば、毎日触る100Vで200mAになる

42Vを問題にするなら、毎日触っている電圧のほうが先です。

濡れた状態の手から手なら、100Vで200mA、200Vで400mA。処置が遅れると死に至るとされる100mAの、2倍と4倍にあたります。

乾いていればどうか。100Vで9.5mAです。身体の自由が失われるとされる10mAの、すぐ下に来ます。200Vなら19mAで、呼吸筋のけいれんで呼吸困難になるとされる20mAにほぼ届きます。

計算のうえでは、乾いた手で100Vに触れても致命的な電流にはなりません。ただし、さきほどの死亡例も100V工具でした。 計算が返す9.5mAは、安全の保証ではありません。

汗などで皮膚の抵抗がさらに下がれば、電流は10mAを超え、表の「けいれんで身体の自由が失われる」に入ります。

電圧ごとの統計もあります。低圧は交流600V以下という広い区分ですが、研究所が紹介する資料によれば、感電災害の約半分は100Vまたは200Vで起きています。 これは死亡に限らない、感電災害全体の数字です。

さきほどの周波数の話は、低い電圧にも当てはまります。42Vや24Vでも、商用電源から変圧器で作る交流なら、周波数は同じ50Hzか60Hzです。 あの帯からは出られません。

42Vが死にボルトと呼ばれているなら、100Vはどう呼べばいいのか。濡れた状態の手から手で比べれば、処置が遅れると死に至るとされる値を超えているのは100Vのほうです。

接地の外箱の90.9Vも、漏電遮断器の30mAも、同じ表に置ける

接地と漏電遮断器の数字も、電流に直すと、電流と反応の表のどこに来るかが見えます。

接地された外箱に出る90.9V

D種接地工事の接地抵抗が100Ωのとき、漏電した機器の外箱の対地電位は、最大で90.9Vになります。外箱の対地電位は、大地を基準にした外箱の電位のことで、電線と大地との間の電圧である対地電圧とは区別して書きます。計算では、対地電圧100V、変圧器側のB種接地を10Ωと置き、地絡そのものに抵抗がないとしています。外箱に触れた人は、この電位を受けることになります。この計算は記事「アース線をつないでも、外箱の電圧はほとんど下がらない」で追いました。

その90.9Vを、濡れた体に当てます。

90.9 ÷ 500 = 181.8mA

処置が遅れると死に至るとされる100mAの、1.8倍です。同じ500Ωで比べれば、接地されている外箱に触れるほうが、42Vの充電部に触れるより電流が大きくなります。

この181.8mAは、最悪条件の上限です。人が遠く離れた大地に立ち、靴や床の抵抗もゼロとして、90.9Vがそのまま人体にかかると置いています。実際には、人が外箱に触れると人体とD種接地抵抗が並列になり、外箱の対地電位は少し下がります。その並列を入れて計算し直すと約179mAで、結論は変わりません。靴や床の抵抗が入れば、電流はこれより小さくなります。

接地は、触っても安全な電圧まで下げる仕組みではありません。電圧で見ても電流で見ても、そう言えます。

ただし、漏電遮断器が施設されていれば、この90.9Vは、それが切るまでのあいだの電圧です。 ずっと残り続けるわけではありません。この状態の地絡電流は0.909Aです(計算は同じ記事)。30mA形の漏電遮断器から見れば約30倍で、定格感度電流を大きく超えます。その場合も、接地が引き受けているのは、遮断器を動かすところまでです。

※ 電気設備の技術基準の解釈は、第36条で、一定の電路に、地絡を生じたときに自動的に電路を遮断する装置の施設を求めています。この条の見出しは「地絡遮断装置の施設」です。漏電遮断器のほか、漏電リレーと遮断器の組合せも、この地絡遮断装置にあたります。この記事では、区別が要るところを除いて「漏電遮断器」と書きます。

30mAは、身体の自由が失われる10mAより先にある

高感度形の漏電遮断器は、定格感度電流が30mA以下のものをいいます。ここでは、その上限の30mAを見ます。

電流と反応の表に置いてみると、30mAは、身体の自由が失われる10mAより先で、心室細動のおそれがある50mAの手前にあります。

読み落とされやすいのは、ここです。人だけが漏電の通り道になっている場合、漏電遮断器が動いたときには、動作するだけの電流がいったんは体を流れています。遮断器があるから無傷で済む、という意味ではありません。

30mAについて、電流と反応の表から分かるのは位置だけです。人体への影響から決めたと書ける根拠は、下の注記の記事でも見つかっていません。

※ 30mAがどこから来た数字かは、記事「漏電遮断器の30mAと0.1秒は、どこから来た数字か」で条文と資料からたどりました。30mAは、労働安全衛生規則第333条にも、電気設備の技術基準の解釈第36条にもありません。出てくるのは、昭和44年の通達による第333条の解釈(電流動作形で「おおむね30ミリアンペア」)と、製品の区分(高感度形)です。30mAにした理由は、メーカーの技術資料が載せているその解釈にも、経済産業省の「電気設備の技術基準の解釈の解説」にも見当たりませんでした。通達そのものは、その記事でも開けていません。

条文が締めているのは、電流と時間の両方です

電気設備の技術基準の解釈から、接地に関わる条件を2つ取り上げます。どちらも、地絡を生じたときに備えた条件です。どちらにも時間が入っています。

条文が認めていること条件
D種接地を100Ωではなく500Ωにできる低圧電路で地絡を生じたとき0.5秒以内に電路を自動的に遮断する装置を施設すること
水気のある場所以外で、低圧用の機械器具の接地を省略できる定格感度電流15mA以下、動作時間0.1秒以下の電流動作型の漏電遮断器(電気用品安全法の適用を受けるもの)を施設すること

電流のほうは、電流と反応の表に置けば位置が見えます。15mAは、身体の自由が失われる10mAのすぐ上です。 30mAのさらに手前にあります。2つのうち、感度をここまで締めているのは、接地そのものを省かせる側です。

時間のほうは、電流と反応の表には置けません。電流だけの目安で、時間の軸を持っていないからです。ただし同じ教材は、国際電気標準会議が通電電流と通電時間の組み合わせで領域を分けた資料も紹介しています。その資料では、通電電流が曲線c1を超える領域で、心室細動が起こる確率は、通電電流と通電時間が増えるほど高くなります。

条文が電流だけでなく時間も指定していることは、この見方と符合します。符合するだけです。 この教材には、条文の値をこの見方から決めたという記述は見当たりません(15mAの理由は下の注記)。

※ このうち15mAの理由は、上の注記と同じ記事で、電気設備の技術基準の解釈第29条(第2項第五号)の解説に見つけました。0.1秒の理由は、解説にも見つけていません。接地を省略した外箱に漏電が起きて人が触れると、漏電遮断器を動かす電流が人の体を通ります。そこで、規格上は動かない側の上限である定格感度電流の半分(7.5mA)を、解説の言う可随電流(手が離せる電流の上限)に合わせた、という説明です。

対策は、汗も濡れと見て、作業の手順に戻ること

ここまでの数字が言っているのは、一つです。電圧が同じでも、濡れているかどうかで電流は桁が変わります。

対策も、そこに戻ります。

汗も濡れです。 雨や水たまりだけの話ではありません。研究所は夏に多い理由として、発汗で人体の抵抗が低下すること、暑さで肌の露出が増えること、注意力が低下しがちであること、絶縁用保護具の使用を怠りがちになることを挙げています(安衛研ニュースNo.88・No.192)。手が汗ばんでいるかどうかで、同じ充電部に触れたときの電流が変わります。

濡れが効くのは、仕事で電気を扱う人だけではありません。濡れやすい場所は、洗面所、浴室、台所、そして屋外のコンセントまわりです。危ない電圧が特別な場所にあるのではなく、ふつうの電圧が、濡れる場所にあります。

もう一つ、原因の分類を見ておきます。同じ173人の分析で、漏電や絶縁不良といった設備的な要因は16人、約9パーセントにとどまります。安全管理体制の不備や作業者のエラーなど、設備以外の要因が148人で約86パーセントを占めます。この2つの合計は164人で、残る9人は示されていません。

死亡の多くは、設備が壊れたために起きているのではありません。 この記事が勧めたい対策も、設備ではなく作業の側にあります。検電器で電気が来ていないことを確かめる、停電させたことを確認する、絶縁用保護具を使う、といった手順です。絶縁用保護具の使う前の点検と、定期自主検査の対象になるかどうかは、記事「絶縁用保護具の定期自主検査は6か月以内ごと」で扱いました。

※ 停電作業で労働安全衛生規則第339条が求める措置は、検電だけではありません。同条は、開路に用いた開閉器の施錠・表示・監視人のいずれかなども求めています。同条が検電器具による停電の確認を求めているのは高圧・特別高圧の電路ですが、低圧で検電が不要という意味ではありません。記事「検電して電圧がなくても、まだ触らない」で、条文から読みました。

夏だけ気をつければいい、という話でもありません。研究所は、冬には命に別条のなかった感電のヒヤリ・ハットでも、同じことが夏に起これば死亡することも考えられる、としています。そのうえで、常日頃からヒヤリ・ハットを見過ごさないことが大切だと述べています。

平成13年には、厚生労働省労働基準局安全衛生部安全課長から「夏季における感電災害の防止について」という通達も出されました(安衛研ニュースNo.192)。

なお、仕事中の感電による死亡者数は、昭和49年の203人から、平成26年には15人まで減っています(安衛研ニュースNo.88)。それでも、ゼロにはなっていません。

自分の扱う交流の電圧も、濡れた手から手なら500で割れば表に置ける

感電は試せません。代わりにできるのは、自分が扱っている電圧を、電流と反応の表に載せてみることです。電卓だけで済みます。

  • 電圧を500で割る(濡れた条件で、手から手の経路の抵抗)
  • 出た数字はアンペアなので、1000倍してミリアンペアにする
  • 電流と反応の表の、どこに落ちるかを見る
電流の対数目盛の上に、出典が示す6つの目安と、この記事で出した値を並べた図。軸の上に、出典の目安として1(感知する程度)、5(苦痛を伴う)、10(けいれんで身体の自由が失われる)、20(呼吸筋のけいれんで呼吸困難)、50(意識喪失、心室細動のおそれ)、100(心室細動により、処置が遅れると死に至る)。軸の下に、この記事の計算値として4.0(42V・乾燥)、9.5(100V・乾燥)、19(200V・乾燥)、48(交流24V・濡れ)、84(42V・濡れ)、181.8(外箱90.9V・濡れ)、200(100V・濡れ)、400(200V・濡れ)mA。装置と条文の値として30(高感度形の漏電遮断器の定格感度電流の上限)、15(条文が接地の省略に求める感度)mA。目安と目安のあいだは塗られていない。
出典の目安のすぐ下に来ている値が、3つあります。乾いた手から手の9.5と10、19と20、濡れた手から手の交流24V(下の例)の48と50です。外箱の181.8は、漏電遮断器があればそれが切るまでのあいだの、最悪条件の上限です。

たとえば制御回路の交流24Vなら、24 ÷ 500 = 0.048Aで48mAです。50mAの一歩手前に来ます。交流24Vは、表の外側にはありません。制御回路の24Vが直流なら、この表には置けません。この記事は表を交流の目安として扱っているからです。

自分がふだん扱っている電圧が表のどこに来るかを、一度は見ておいてください。

まとめ

  • 「42Vは死にボルト」は語呂合わせで、許容接触電圧の表に42という数字はありません
  • 体に起きることを決めるのは、電圧ではなく流れた電流です
  • 人体の抵抗は、内部の抵抗(最悪の場合を想定して一般に使う値で、手から手・手から足で約500Ω)と、皮膚の抵抗に分かれます。皮膚は乾燥時に10,000Ω以上とされ、濡れると極端に下がることもあります。この記事は内部の500Ωを濡れても変わらないものとし、乾燥10,500Ω・濡れ500Ωと置き、21倍の差になりました
  • 42Vを手から手で当てると、乾燥で4.0mA、濡れで84mA。濡れたまま経路が手から胸なら186.7mAです
  • 84mAは、心室細動のおそれがある50mAと、処置が遅れると死に至るとされる100mAの間にあります
  • 濡れた手から手なら、100Vで200mA。乾いていれば、手から手で100Vなら9.5mA。身体の自由が失われるとされる10mAのすぐ下です
  • 100V工具の漏電で、安全靴を履きコンクリート土間で作業していて死亡した例があります。教材はこれを、死に至るほどの電流とは思えないケースとして挙げています
  • ここに出した数字は目安の計算であって、あなたの体の値ではありません
  • 仕事中の感電死亡災害では、低圧の105人中91人が6月から9月です。高圧に月の偏りは見られません(平成15〜24年の統計)
  • 低圧と高圧の死亡者数の比較は、触れる機会が違うため危険度の比較にはなりません
  • 条文がD種接地を500Ωまで緩めるときの条件は、低圧電路で地絡を生じたときに0.5秒以内に自動的に遮断する装置を施設することです
  • 条文は、水気のある場所以外で、低圧用の機械器具の接地の省略を認めています。条件は、15mA以下・0.1秒以下の電流動作型の漏電遮断器(電気用品安全法の適用を受けるもの)を施設することです。電流と時間の両方を締めています
  • 高感度形の漏電遮断器の30mAは、身体の自由が失われる10mAより先にあります。人だけが漏電の通り道になっている場合、漏電遮断器が動いたときには、動作するだけの電流がいったんは体を流れています
  • 汗も濡れと見ます。平成15〜24年の仕事中の感電死亡173人では、多くが安全管理体制の不備や作業者のエラーなど設備以外の要因によるものです。この記事が勧める対策は、検電・停電の確認・絶縁用保護具といった作業の手順です

計算の前提と途中式

  • 表の電流値はすべて、オームの法則(電流=電圧÷抵抗)による割り算です
  • 乾燥10,500Ωは、皮膚表面10,000Ωと内部500Ωを足したものです
  • 90.9Vは、記事「アース線をつないでも、外箱の電圧はほとんど下がらない」で求めた外箱の対地電位(いちばん高く出る場合の値)をそのまま使っています
  • 約179mAは、外箱から見た電源側を90.9Vと約9.1Ω(D種100ΩとB種10Ωの並列)に置き換え、人体の500Ωをつないで計算した値です。足元の抵抗はゼロと置いています
  • 手から胸の225Ωは、手から手の500Ωに45/100を掛けたものです。186.7mAは、42Vをその225Ωで割った値です
  • 電流の目盛の図には、この186.7mAを入れていません。181.8mAと近すぎて、図の上で重なるためです

参考にした資料

この記事を書いた人
高卒電気マン

高卒から電気の道へ。プラントの電気保全を8年あまり、受配電設備の設計を経て、現在はクレーンの電気制御設計に従事。2026年に電験三種合格。壊れる側と作る側の両方を見てきた視点で、日々の学びを記録しています。

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