すべり4%は、そのまま4%が熱になる ― 誘導電動機の損失とすべりの関係

すべり4%は、そのまま4%が熱になる ― 誘導電動機の損失とすべりの関係 電気の仕事と基礎知識

すべりは、誤差ではありません。トルクを出すための必要条件です。(この理由は記事「誘導電動機はなぜ回るのか」で説明しています)

これは正しいのですが、話の半分でしかありません。同じすべりを別の側から見ると、こうなります。

すべりは、二次側に渡った電力のうち、そのまま熱になる割合です。

すべり4%のモータは、回転子に渡った電力の4%を熱にしています。すべりが必要なのは本当ですが、その必要な分だけ、電力を損失として支払っているともいえます。

今回は、同じものを逆から見ます。

すべりは、そのまま「熱になる割合」

先に結論を書きます。二次入力は、「機械出力」と「二次銅損」に、(1 − s) : s の割合で分かれます。

二次入力 : 機械出力 : 二次銅損 = 1 : (1 − s) : s

回転子に渡った電力の内訳を示す帯グラフ。定格運転(すべり4%)は機械出力96%と熱4%。始動の瞬間(すべり100%)は熱100%。
図1 二次入力の内訳(定格運転と始動の瞬間)

すべり4%なら、96%が機械出力に変換され、4%が熱として失われます。

この関係には、モータの大きさも、負荷の重さも、周波数も出てきません。すべりだけで決まります。だから銘板の回転数を見れば、そのモータが定格運転で回転子側でどれだけ捨てているかが、その場で分かります。

ここでいう「二次入力」は、固定子から空隙を渡って回転子に届いた電力のことです。壁のコンセントから入ってくる電力そのものではありません。届く前にも損失があります(後述)。

なぜそうなるのか ― r₂/s は2つに分けられる

二次回路の等価回路には、2通りの書き方があります。電源周波数を基準にした形では、抵抗が r₂ ÷ s になります。(2つの書き方については記事「トルク特性曲線の読み方」で説明しています)

この r₂ ÷ s を、こう分解できます。

r₂ ÷ s = r₂ + r₂(1 − s) ÷ s

二次回路の等価回路。電圧 E₂ に対して、熱になる分の r₂、仕事になる分の r₂(1−s)/s、リアクタンス x₂ が直列に並ぶ。定格運転なら r₂/s = 6.25 = 0.25 + 6.00。
図2 等価回路の r₂/s は、2つに分けられる

左の r₂ が、本物の抵抗です。回転子の導体が実際に持っている抵抗で、ここで消費された電力は熱になります。

右の r₂(1 − s) ÷ s は、抵抗の形をしていますが、抵抗ではありません。ここで消費されたことになっている電力が、軸から出ていく機械出力です。等価回路は電気回路なので、機械の仕事を抵抗に見立てて表しているだけです。

軸から出ていく電力も、回路から見れば「どこかへ消えていく電力」です。消える先が熱か仕事かは、回路の中からは区別がつきません。

なぜ、並べて足せるのか

「二次入力から二次銅損を引いた残りが機械出力」のはずなのに、等価回路では2つが並んでいる。ここは引っかかるところだと思います。

鍵は、2つが直列につながっていることです。直列なら、どちらにも同じ電流が流れます。電流が同じなら、それぞれで消費される電力の比は、抵抗の比そのものになります。

r₂ : r₂(1 − s) ÷ s = s : (1 − s)

そして2つを足せば r₂ ÷ s に戻り、これが二次入力です。引き算で見ると分かりにくいのですが、足し算で見れば、直列に並んでいること自体が「合わせて二次入力になる」を意味しています。

定格運転(s = 0.04)で計算すると、r₂ ÷ s = 6.25 = 0.25 + 6.00。6.25のうち0.25、つまり4%が熱。残りの6.00、96%が仕事。

先ほどの 1 : (1 − s) : s は、この割り算そのものです。覚える式が1つ増えたのではなく、等価回路の抵抗を2つに分けただけでした。

始動の瞬間は、全部が熱になる

この関係は、すべりがどんな値でも成り立ちます。極端な値を入れてみます。

s = 1 を代入してみます。機械出力の割合 = 1 − s = 0。熱になる割合 = s = 1。

回転子に届いた電力が、100%熱になります。

当たり前と言えば当たり前で、止まっているものは仕事をしていません。軸が回らないのだから、出ていく先がない。全部が回転子の中で熱に変わります。

しかも、そのとき流れている電流は定格の6倍です。発熱は電流の2乗で効くので、同じモデルで計算すると、始動の瞬間の二次銅損は定格運転時の約37倍になります。

定格の37倍の熱が、軸が止まったまま、つまり冷却ファンが回っていない状態で発生しています。始動が一瞬で終わるなら問題になりませんが、重い負荷でなかなか加速しない場合や、始動を短時間に繰り返す場合は、この熱が効いてきます。

始動電流がなぜ6倍にもなるのかは、記事「トルク特性曲線の読み方」で説明しています。

ここまでは、止まっている瞬間の話でした。ここからは、普段の運転に戻ります。

効率を上げようとすると、始動トルクが落ちる

ここまでで、すべりを小さくすれば効率が上がることが分かりました。

すべりを小さくするには、二次抵抗を小さくすればいい。記事「トルク特性曲線の読み方」の比例推移がそのまま使えます。二次抵抗を半分にすれば、同じトルクを出すすべりも半分になります。

ところが、そう単純にはいきません。

横軸が定格すべり、縦軸が始動トルクのグラフ。すべり1%で始動40%、2%で79%、4%で149%。左上にある星印は、深溝形・二重かご形が狙う領域。
図3 効率と始動トルクの二者択一。星印は深溝形・二重かご形が狙う領域(模式)。

同じ定格トルクを出したまま二次抵抗を下げていくと、こうなります。

二次抵抗定格すべり二次銅損始動トルク
そのまま4.0%1.00149%
半分2.0%0.5079%
4分の11.0%0.2540%

二次抵抗を4分の1にすると、二次銅損も4分の1になります。しかし始動トルクが149%から40%まで落ちます。定格の40%では、動き出せない負荷が出てきます。

比例推移の図を思い出すと、理由はすぐ分かります。二次抵抗を下げると曲線が同期速度側に寄るので、始動側(すべり1)が曲線の裾に取り残されるからです。

単純なかご形では、効率と始動トルクは二者択一です。

そして、この二者択一を外すのが深溝形と二重かご形でした。運転時は低抵抗、始動時だけ高抵抗。図3の星印が、その狙っている場所です。

これは、記事「トルク特性曲線の読み方」で「運転時の効率を落とさずに始動トルクを稼ぐ」と書いた仕掛けそのものです。その「効率を落とさずに」が何を指していたのかが、ここまでの数字ではっきりします。

二次抵抗で速度を落とすと、何を捨てているか

前の節では、設計時に二次抵抗をいくつにするかという話をしました。ここからは、運転しながら二次抵抗を変える話です。

すべりが損失の割合だと分かると、古い速度制御の方法がなぜ廃れたのかが数字で見えます。

同期速度1800rpmのモータを、900rpmで回したいとします。同じトルクを出したまま。

方法1:二次抵抗を増やす

巻線形の回転子に外部抵抗をつなぎ、すべり0.5で釣り合わせます。同期速度は1800rpmのままなので、実際の回転数が900rpmになります。

このとき、二次入力の50%が熱になります。出てくる仕事と同じだけの電力を、捨てていることになります。

方法2:インバータで30Hzにする

同期速度そのものを900rpmに下げます。すべりは小さいままです。同じモデルで計算するとすべり8%程度で、熱になるのは二次入力の8%です。

同じ仕事100をさせるために回転子へ送り込む電力の比較。二次抵抗で落とすと仕事100に対して熱100。インバータで30Hzにすると仕事100に対して熱8.7。
図4 900rpmで同じトルクを出す ― 二次抵抗とインバータ

同じ仕事をさせるのに、二次抵抗のほうは2倍近い電力を回転子へ送り込む必要があります。

入力の差は2倍ですが、捨てる熱で比べると11倍以上の差になります。増えた分が、ほぼそのまま熱だからです。

巻線形の場合、この熱の大半はモータの外にある抵抗器で発生します。同じモデルで計算すると、外部抵抗が全体の92%を占めるので、モータ自体が焼けるわけではありません。

ただし、外で燃やしていても電気代は払っています。モータが無事なことと、エネルギーを捨てていないことは、別の話です。

しかもその抵抗器は、捨てる電力の分だけ大きくなります。加えて巻線形にはスリップリングとブラシがあり、ブラシは摩耗するので定期的な交換が要ります。失われるのは電力だけではありません。

このモデルに入っていない損失

ここまでの計算は、回転子より先の話だけをしています。実際のモータには、他にも損失があります。

  • 一次銅損 ── 固定子巻線の抵抗による発熱。同じモデルで計算すると、定格運転で入力の0.8%程度
  • 鉄損 ── 鉄心の中で磁束が向きを変えることによる損失。このモデルには入っていません
  • 機械損 ── 軸受の摩擦、冷却ファンの風損。これも入っていません

なお、鉄損と機械損は、負荷が軽くなってもほとんど減りません。だから「軽い負荷で回せば効率が上がる」という話にはなりません。

一次銅損まで入れると、このモデルの効率は96%から95%程度まで下がります。鉄損と機械損を入れれば、さらに下がります。

このモデルは、一次抵抗を小さめに置いています。そのぶん一次銅損も小さく出ています。一次抵抗を5倍にして同じ計算をすると、この95%は92%程度まで下がります。

つまりこの95%は、実機の効率ではありません。「二次側だけを見たときの上限に近い値」だと思ってください。

ただし、(1 − s) は越えられません。他の損失をどれだけ減らしても、回転子から出てくる仕事は、渡した電力の (1 − s) 倍が上限です。すべりは、効率の天井を決めています。

それでも誘導電動機が使われる理由

ここまで、すべりを損失として見てきました。最後に、その代金で何を買っているのかを書きます。

すべりは、負荷に応じて勝手に決まります。負荷が重くなればすべりが増え、そのぶんトルクが増える。誰も制御していません。

これが実用上どういう意味を持つか。回転子がいまどこを向いているかを、知らなくていいということです。

永久磁石を使った同期電動機は、そうはいきません。回転子の磁石の位置に合わせて電流を流さないとトルクが出ないので、位置を検出するセンサーか、位置を推定する制御が必要になります。

誘導電動機は、商用電源につなぐだけで回ります。インバータでV/f制御をする場合も、モータ側に付くのは電源の3本の線だけです。センサーの配線も、位置合わせの調整もありません。

だから、すでに動いている設備のモータを、インバータを追加して可変速にすることもできます。

ただし、既設のモータに後付けする場合は、絶縁や冷却の面で確認すべき点があります。配線の本数が同じことと、そのまま使えることは別です。

すべり4%は、その代金です。

まとめ

  • 回転子に渡った電力は、機械出力と二次銅損に (1 − s) : s で分かれる
  • すべり4%とは、そのまま「4%が熱になる」ということ。モータの大きさにも負荷にも周波数にもよらない
  • 等価回路の r₂ ÷ s は、本物の抵抗 r₂ と、機械出力を表す r₂(1 − s) ÷ s に分けられる。この割り算が (1 − s) : s の正体
  • 止まっているときは s = 1 なので、届いた電力は全部が熱になる。しかも電流が6倍なので、二次銅損は定格の約37倍
  • 二次抵抗を下げれば効率は上がるが、始動トルクが落ちる。単純なかご形では二者択一
  • 深溝形・二重かご形は、効率を捨てずに始動トルクを稼ぐための仕掛け
  • 二次抵抗で速度を半分にすると、出てくる仕事と同じだけの電力を熱として捨てる。インバータならその10分の1以下
  • 他の損失をどれだけ減らしても、(1 − s) が効率の天井になる
  • すべりが負荷に応じて勝手に決まるので、回転子の位置を知らなくても回せる。センサーも位置合わせも要らないことが、損失と引き換えに得ているもの

この記事の数値について

本文のグラフと数値は、記事「トルク特性曲線の読み方」と同じモデルで計算しています。

電圧 V = 1.0、一次抵抗 r₁ = 0.05、二次抵抗 r₂ = 0.25、一次漏れリアクタンス x₁ = 0.5、二次漏れリアクタンス x₂ = 0.5(いずれも同じ基準にそろえた値)。定格すべり s = 0.04 の点を100%として正規化しています。

このモデルには鉄損と機械損が入っていません。実機の効率は、ここで出した値より低くなります。

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