サーマルリレーは、モータの温度を見ていません。モータと同じ電流で自分自身を温め、その熱でバイメタルが曲がって動きます。サーマルが動いたとき主回路を切るのは電磁接触器で、「設定電流の何倍で何秒で飛ぶか」は、整定ではなく機種で決まっています。
サーマルリレーは、電気の仕事をしていれば、たいてい一度は触ります。交換も、整定も、トリップしたあとのリセットも。
では、あれは何を見て動いているのか。
「熱で動く」までは、よく知られています。問題は、誰の熱かです。

答えは、リレー自身の熱です。モータと同じ電流がリレーの中を流れて、リレーを温めます。サーマルがやっていないことは3つあります。モータの温度を見ること、主回路を切ること、整定で「何秒で飛ぶか」を決めることです。
サーマルは、モータの温度を測っていない
動いているのはバイメタルです。膨張率の違う2枚の金属を貼り合わせたもので、温まると曲がります。
では何が温めるのか。ヒートエレメントに流れる電流です。モータの温度ではありません。
サーマルリレーは、モータと同じ電流を受けて、モータが限界に達するより先に、動作する温度に届くように作られています。
だから、こうなります。
サーマルリレーは、自分の温度で動いています。
モータがどれだけ熱いかは、見ていません。
夏場に飛びやすくなるのは、この原理のためです。電気室が暑く、盤の中がさらに暑い。周りが暑ければ、リレーはそのぶん先に熱くなります。
ある製品(オムロン J7TC)のカタログでは、仕様が周囲温度20℃を基準に書かれています。20℃なら、目盛り(整定電流)の105%を冷えた状態から流しても、2時間未満では動きません。40℃では、これが100%になります。
暑くなると、「動かない」と言える範囲が5%分せまくなります。目盛りを定格電流に合わせたリレーで、モータの電流が定格の100%を超え、105%以下だとします。20℃なら仕様の「動かない」範囲の中ですが、40℃ではもう「動かない」とは言えません。夏の盤で起きやすいのは、これです。
ただし、40℃でも、冷えた状態から目盛りの100%を流して2時間未満では動かないのが、この製品の仕様です。この仕様のリレーで、盤の中が40℃以下、電流も定格以下のはずなのに飛ぶなら、暑さだけでは説明がつきません。目盛りが定格電流(Δの相の中に入れるなら、その1/√3倍)より低くなっていないか、盤の中が40℃を超えていないか、運転電流が本当に定格以下か、三相の電流がそろっているか。「暑いから仕方ない」で済ませる前に、まずそこを確かめてください。目盛りを確かめたり動かしたりするときは、盤の中の充電部に近づきます。電源を切り、ほかの人が入れないよう開閉器に施錠か表示をして、検電で電圧がないことを確かめてから行います。停電作業で求められる措置は、記事「検電して電圧がなくても、まだ触らない」にまとめました。
周囲温度の影響を減らす補償機構を持つ機種もあります。ただし、補償があっても暑さの影響が消えるわけではありません。J7TCのカタログにも「周囲温度補償性能」の項があります。その特性は、低温側では動作電流が高く、高温側では低くなる「不足補償気味」だと書かれています。それに、補償するのはリレー自身の周りの温度で、モータがいる場所の温度ではありません。
検出と遮断は、別の部品がやっている
サーマルがやっていないことは、もう1つあります。
モータの温度を見ていないだけではありません。サーマルは、モータを止めてもいません。主回路を切っているのは、サーマルではないからです。
サーマルの接点が切るのは操作回路です。それで電磁接触器のコイルが切れ、接触器が主回路を開く。サーマルは検出係で、遮断係は接触器です。
電磁接触器にサーマルリレーを組み合わせたものが、電磁開閉器です。2つの違いと現場での呼び方は、記事「電磁接触器と電磁開閉器の違いはサーマルリレーの有無」に書きました。

リセットしても、原因は消えません。リセットで復帰するのはサーマルの接点だけで、溶着した主接点はそのままだからです。
「設定電流の何倍で何秒で飛ぶか」は、整定では決まっていない
サーマルがやっていないことを、もう1つ。「設定電流の何倍で何秒で飛ぶか」は、整定では決めていません。
サーマルの整定でやることは、目盛りをモータの定格電流に合わせることです。
ただし、合わせる電流はリレーの入れ場所で変わります。三菱電機のFAQは、スターデルタ始動でリレーをΔの相の中に入れて相電流を見る場合を挙げています。そのときは、モータの全負荷電流の1/√3倍に設定するとしています。
設定値を定格電流に合わせる理由と、設定を上げたときに起きることは、記事「サーマルリレーの設定値は定格電流に合わせる」に書きました。インバータ1台で複数のモータを回すときの考え方も、同じ記事にあります。
そのあと、リレーはメーカーの仕様書どおりに動きます。最初の節で挙げたオムロン J7TCの動作基準(周囲温度20℃、3極負荷)は、こうです。
| 目盛りに対する電流 | 動作 | 条件 |
|---|---|---|
| 105% | 2時間未満では動作しない | コールドスタート(冷えた状態から) |
| 120% | 2時間未満で動作する | ホットスタート(温まった状態から) |
| 150% | 2分未満で動作する | ホットスタート(温まった状態から) |
| 720% | 2秒を超え、10秒以内に動作する | コールドスタート(冷えた状態から) |
表の右端に注目してください。同じリレーでも、冷えているときと温まっているときで、動作の基準が違います。105%で動かないのは冷えているとき、150%で2分未満に動くのは温まっているときの話です。
リレーは自分の温度で動くので、こうなります。停止状態から始動すればリレーは冷えていて動作は遅く、運転中に拘束すれば(軸が止まって回れなくなれば)リレーは温まっていて早く飛ぶ。
この「何秒で」を表すのが、トリップクラスという分類です。同じ電流倍率で、何秒後に動くかで分かれています。さきほどの製品はクラス10Aで、目盛り(整定電流)の7.2倍を冷えた状態から流すと、2秒を超え10秒以内に動作します。
目盛りをどう回しても、「設定電流の何倍で何秒」という関係は変わりません。この関係は、機種を選んだ時点で決まっています。目盛りで動かせるのは、その関係を何アンペアに当てはめるかだけです。
整定は、決まったことを運用に移す作業です。
守れるかどうかは、その前に、機器を選んだときに決まっています。
選定では、3つを1枚の図に重ねる
選ぶときに見るものが3つあります。
- 始動の点 ── 何アンペアが何秒流れるか
- リレーの動作特性 ── 何アンペアで何秒後に動くか
- モータの許容拘束時間 ── 回らないまま、何秒まで耐えられるか
このサイトの計算モデル(始動電流が定格の約6倍)では、拘束中の回転子の発熱(二次銅損)は定格運転の約37倍です。拘束中は、軸が止まったまま、この発熱が続きます。そのうえ、軸で冷却ファンを回す自冷のモータでは、そのファンも止まっているので、熱の逃げ場も減ります。約37倍という値は、記事「すべり4%なら、回転子に渡った電力の4%が熱になる」で、始動の瞬間(すべり1)として計算しています。軸が止まっている拘束中も、すべりは同じ1です。
リレーが見ているのは、モータへ流れ込む電流だけです。回転子がどれだけ熱くなっているかは、そこに入っていません。だから、許容拘束時間を別に調べて突き合わせます。

リレーの線は、始動の点より上を通り、モータの線より下を通らなければなりません。上を通らなければ始動のたびに飛び、下を通らなければ守れない。その間の帯の中に線を通すのが、選定の仕事です。帯の下の縁は、始動の点の高さで決まります。
意味が違う3つを1枚に重ねられるのは、どれも「電流いくつで、何秒」という形で書けるからです。メーカーのカタログの曲線も、この形で描かれています。
※この図は、定格より上の過負荷の領域だけを描いています。定格の電流では、リレーは動作しないように作られています。
実際の始動では、電流は加速につれて下がっていきます。図では、いちばん大きい電流と、始動時間の1点で代表させています。
始動に時間がかかる機械では、帯が狭くなる
始動に時間がかかれば、始動の点は上へ動きます。リレーの線は、その上を通らなければならない。始動の点がリレーの線より上に出れば、動作の遅い機種を選ぶことになります。
始動の点が上がったぶん、下の縁が上がって帯が狭くなります。通せる線の選択肢が減り、残るのはモータの線に近いものだけです。
ただし、これは電流が変わらないまま時間だけ延びる場合です。慣性の大きい機械を全電圧で始動するときが、これにあたります。
電圧を下げて始動する方式では、話が違います。電流が下がって時間が延びるので、点は左上へ動きます。(スターデルタでは、慣性だけの負荷でも、Y結線のあいだは加速に3倍かかります。記事「スターデルタ始動でも、モータの発熱は減らない」で説明しています)
このとき帯の形も変わりますが、どう変わるかはリレーをどこに入れるかでも違います。ここから先は、電流が変わらないまま始動が長引く場合に絞ります。
始動を通すために遅い機種を選べば、拘束を検出するのも、そのぶん遅くなります。
始動を通す設定と、拘束を早く切る設定は、引っ張り合います。
どちらも満たす1つの正解はなく、帯の中のどこに置くかの判断になります。置く場所を決めるときは、始動の点との間にも、モータの線との間にも、すき間が残っているかを確かめます。
よく飛ぶからと、目盛りを上げて済ませない
よく飛ぶから、目盛りを上げる。これで飛びにくくはなります。
ただし、動いたのはリレーの線だけです。モータの許容曲線は、1ミリも動いていません。目盛りを上げれば、リレーの線は帯の中を上へ動き、やがて帯からはみ出します。そのとき、飛ばなくなった代わりに、守れなくなっています。
目盛りが定格電流(入れ場所に応じた値)に合っているなら、飛んで困るときも、まず動かすのは目盛りではありません。始動の点を下げる(始動にかかる時間を短くする)か、機種を選び直すか、盤の温度を下げるか、です。例外もあります。J7TCのカタログは、モータの種類によって始動時に不要動作する場合は、目盛りを上げるよう書いています。目安は5%以内です。過度に上げると適切に保護できない、とも書いています。始動のときではなく運転中に飛ぶなら、目盛りより先に確かめることがあります。負荷が重くなって運転電流が増えていないか、三相の電流がそろっているかです。本当に過負荷なら、リレーは正しく働いています。
保全をしていた頃、覚えている範囲では、モータが運転しないときは、過電流でサーマルが動作していたことが多かった印象です。サーマルが動作して止まったとき、盤を開けずに書き留めることは、記事「モータが回らない原因を探す前に」に書きました。
サーマルだけでは、守れないものがある
ここまでは、サーマルが守るものの話でした。守れないもの、守りきれないものもあります。短絡、地絡、欠相、それに相順の逆転(反相)です。まず短絡から。
電磁接触器には、切れる電流の上限があります。短絡電流は、ふつうその上です。だから短絡は、上流の配線用遮断器(MCCB)が動作して、接触器の能力の不足を補います。
過負荷はサーマル、短絡はMCCB。役割が分かれているのは、接触器とMCCBで切れる能力が違うからです。
次は、地絡です。これはサーマルでもMCCBでもありません。どちらも見ているのは電流の大きさで、地絡を地絡として検出する仕組みを持っていないからです。低圧の回路で担当するのは、たとえば漏電遮断器です。設備によっては、地絡を検出する別の機器と遮断器を組み合わせることもあります。(記事「配線用遮断器は、地絡を地絡として見ていない」で扱っています)
欠相も、過負荷の要素だけでは足りない場合があります。オムロンの技術解説によると、欠相のときに電流がどう増えるかは、結線や欠相の位置、負荷の状態で変わります。同じ資料は、欠相はできるだけ早く検出することが必要で、欠相要素を搭載したリレーを設置することが一般的だとしています。過負荷に欠相を足した「2Eリレー」、それに反相(相順が逆)を足した「3Eリレー」があります。最初の節で挙げたJ7TCも、欠相保護機能を標準で持っています。
相順が逆になっていることは、電流の大きさをいくら見ても分かりません。
なお、巻線に温度検出素子を埋め込んで、温度そのもので守る方式もあります。オムロンの技術解説は、サーミスタを内蔵したモータは一般的ではないとしています。
端子箱に、主回路のほかに端子が来ていることがあります。温度検出素子かもしれませんし、別のものかもしれません。何が来ているかは、仕様書で確かめてください。
その数字は、銘板・カタログ・仕様書・メーカーに分かれている
| 要るもの | どこにあるか |
|---|---|
| 定格電流 | 銘板。読めなければ図面や仕様書 |
| リレーの動作特性 | メーカーのカタログの曲線 |
| 許容拘束時間 | メーカーの技術資料や仕様書(銘板で見つからなければ、メーカーに問い合わせる) |
| 短絡遮断の担当 | 上流のブレーカ(MCCB)の仕様 |
| 巻線温度検出素子の有無 | 仕様書 |
許容拘束時間を見たことがなくても、不思議ではありません。整定作業には出てこない数字だからです。機器を選ぶ側の作業で、初めて出てきます。
型式と製造番号があれば、メーカーに問い合わせるのがいちばん早いです。一度やっておくと、「この数字は誰が持っているか」の感覚がつきます。
まとめ
- サーマルリレーは、電流が作る熱でバイメタルが曲がって動く。モータの温度は見ていない
- サーマルは、モータが限界に達するより先に動作するように作られている。自分の温度で動くので、盤が暑いほど動きやすい。ただし盤の中が40℃以下で、電流も定格以下のはずなのに飛ぶなら(J7TCの仕様の場合)、目盛り、盤内温度、運転電流、それに三相の電流がそろっているかを確かめる
- サーマルは検出係。主回路を切るのは電磁接触器
- 接触器が溶着していれば、検出が正しくても止まらない。リセットで復帰するのはサーマルの接点だけ
- 整定でやるのは、目盛りを定格電流に合わせること(スターデルタでΔの相の中に入れるなら、その1/√3倍)。設定電流の何倍で何秒で動くかは、選んだ機種で決まっている
- 選定では、始動の点・リレーの特性・モータの許容拘束時間の3つを重ねる
- 電流が変わらないまま始動が長引くほど、始動を通す設定と拘束を早く切る設定が引っ張り合う
- よく飛ぶからと目盛りを上げても、モータが耐えられる時間は変わらない。上げていけば、やがて飛ばなくなった代わりに、守れなくなる(始動時の不要動作で上げる場合、J7TCのカタログの目安は5%以内)
- 過負荷はサーマル、短絡は上流のMCCB、地絡は漏電遮断器など。欠相には、欠相要素を持つリレーを使うのが一般的(反相を見るには反相要素が要る)。サーマル1つで全部は守れない
- 許容拘束時間は、整定の作業には出てこない数字。メーカーの技術資料や仕様書で確かめる
読み終えたら、できることが2つあります。手元の盤で、リレーの目盛りがモータの定格電流(入れ場所に応じた値)に合っているかを見ること(盤の中を見るときは、電源を切り、開閉器に施錠か表示をして、検電してから)。モータの型式と製造番号を控えて、許容拘束時間をメーカーに問い合わせてみること。
計算の前提と途中式
- 「動かない」と言える範囲が5%分せまくなる:20℃の105%と40℃の100%の差
- 拘束中の回転子の発熱が定格運転の約37倍:記事「すべり4%なら、回転子に渡った電力の4%が熱になる」で、始動の瞬間(すべり1、電流は定格の約6倍)として計算した値(このサイトの計算モデル)
参考にした資料
- モータ・リレー 技術解説(オムロン) ── 欠相はできるだけ早く検出することが必要で、欠相要素を搭載したリレーを設置するのが一般的であること、欠相時の電流の増え方が結線や欠相の位置、負荷で変わること、サーミスタを内蔵したモータは一般的ではないこと
- 電磁開閉器テクニカルシート BQN-S8-9497-09-B「サーマルリレーの主回路不導通(ヒータ溶断)」(三菱電機) ── 過電流通電が続いた場合のヒータ溶断
- サーマルリレー J7TCシリーズ カタログ SGFR-603(オムロン) ── 動作基準(105%・120%・150%・720%)、コールドとホットの別、周囲温度20℃と40℃の違い、トリップクラス10A、欠相保護装置付き(標準装備)、始動時に不要動作する場合の整定(5%以内を目安)
- 三相誘導電動機の保護システム(日本電気技術者協会) ── 過負荷と短絡の担当の分かれ方、MCCBによるバックアップ遮断、巻線温度を直接検出する埋込サーモスタット方式(併用を必要とすることもある)
- モータ・リレー概要(オムロン 技術解説) ── 3Eリレーの3要素(過負荷・欠相・反相)
- 2E(欠相保護付き)サーマルリレー(富士電機機器制御 FAQ) ── 2Eの2要素(過負荷・欠相)
- スターデルタ始動器に使用するサーマルリレーの選定について(三菱電機 FAQ) ── Δの相の中に入れて相電流を見る場合は、全負荷電流の1/√3倍に設定すること(2026年10月3日に確認)


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