寸動(インチング)回路とは|押している間だけ回す、b接点で自己保持を切る組み方は止まらないことがある

シーケンス制御

寸動(インチング)は、ボタンを押している間だけモータを回し、離すと止める運転です。オムロンの技術解説は、インチングを「モータのチョイ回しを頻繁に行うこと」と説明しています。始動ボタンを離しても回り続ける自己保持の運転とは、自己保持をかけるかどうかが違います。

寸動と連続運転を1つの回路で切り替える組み方は、主に3つあります。そのうち、寸動ボタンのb接点で自己保持の回路を切る組み方は、電磁接触器が切れるより先にb接点が戻ると、自己保持が残って止まらないことがあります。カナダの公開教科書『Basic Motor Control』は、この組み方が「危険な寸動回路」と呼ばれることがあるとし、補助リレーを使う組み方の利点を、安全で確実なことだとしています。

寸動ボタンのb接点で自己保持を切る組み方で、止まらなくなる理由。寸動ボタンを押すと、b接点が開き、a接点で電磁接触器MCのコイルに電流が流れる。離すと、a接点が開いてコイルの電流が切れるが、MCの接点が開くまでには時間がかかる。その前に寸動ボタンのb接点が閉じると、まだ閉じているMCの自己保持接点を通ってコイルに再び電流が流れ、モータが止まらない。

寸動と自己保持運転の違い

自己保持運転では、始動ボタンを押すと、電磁接触器(MC)の補助a接点が始動ボタンと並列に閉じ、ボタンを離してもコイルに電流が流れ続けます。寸動では、この補助a接点の回路を使わず、ボタンを押している間だけコイルに電流を流します(私の説明)。自己保持の仕組みは、記事「自己保持回路とは」で扱いました。

運転ボタンを押している間ボタンを離したとき
寸動回る止まる
自己保持運転回る回り続ける(停止ボタンで止める)

「寸動」「インチング」「JOG」は、機器によって意味が違う

IEC の用語集(IEV 411-52-42)は、インチングを、機械を電気で少しだけ動かすこと、またはゆっくり回すこととしています。インバータでは、三菱電機は「JOG運転」、オムロンは「ジョギング運転」と呼び、オムロンは位置決めや微調整をする機能と説明しています。

オリエンタルモーターのステッピングモータ用のドライバでは、インチングの信号は1回ごとに1ステップ動かす信号で、JOGの信号は、ONの間だけ回し続ける信号です。同じ言葉でも、機器によって動き方が違います。使う機器のマニュアルで確かめます。

寸動と連続運転を切り替える、3つの組み方

この教科書は、寸動と連続運転を1つの回路で使い分ける組み方として、次の3つを挙げています。

組み方仕組み注意点
切替スイッチ自己保持の補助a接点に、切替スイッチを直列に入れる。寸動の側では自己保持の回路が開く切替スイッチの位置を確かめずに始動ボタンを押すと、思った運転にならない(私の補足)
寸動ボタンのb接点寸動ボタンのb接点を、自己保持の補助a接点に直列に入れ、a接点を始動ボタンと並列に入れる接点の動く速さによっては、自己保持が残る
補助リレー連続運転は補助リレーで自己保持し、その接点でMCを入れる。寸動ボタンはMCを直接入れる部品が1つ増える

b接点の組み方で、止まらなくなる理由

寸動ボタンを押すと、ボタンのb接点が開いて自己保持の回路を切り、a接点でMCのコイルに電流を流します。ボタンを離すと、a接点が開いてコイルの電流は切れます。押しボタンのa接点とb接点の動きは、記事「a接点とb接点の違い」で扱いました。

同じ教科書は、MCの可動部が戻る前に寸動ボタンのb接点が戻ると、コイルに電流が流れ続け、モータが回り続けるとしています。作業者はボタンを離せば止まると思っているのに、モータが回り続けるので、危険だとしています。

MCは、コイルの電流が切れてから接点が開くまでに時間がかかります。オムロンの電磁接触器J7KCのカタログは、交流200Vで操作するときの復帰時間を6〜16msとしています。三菱電機のMS-Tシリーズの技術資料集は、コイルを切ってから主接点と補助a接点が開くまでの時間を、S-T10〜T20で5〜20ms、S-T100で50〜100msとしています(どちらも目安の値)。この資料では、大きいMCほど切れるのが遅くなっています。

押しボタンのb接点が戻るまでの時間を示したメーカーの資料は、見つかりませんでした。どちらが先になるかは、部品と押し方によります(私の整理)。

補助リレーの組み方では、MCが自己保持しない

補助リレーの組み方では、始動ボタンで補助リレーのコイルを入れ、補助リレー自身のa接点で自己保持します。停止ボタンは、この補助リレーの回路に入っていて、押すと自己保持が切れます。MCのコイルには、補助リレーのa接点と、寸動ボタンのa接点を並列にしてつなぎます。MCは自己保持をしないので、寸動ボタンを離せば、MCの接点の戻りの速さに関係なく、MCのコイルの電流は切れたままです(教科書の回路を読んだ私の説明)。教科書の説明では、連続運転は停止ボタンを押すか過負荷になるまで続き、運転中に寸動ボタンを押しても回路は変わりません。

冒頭で触れたとおり、教科書はこの組み方を、安全で確実だとしています。

寸動を多く使うと、電磁接触器とモータに負担がかかる

電磁接触器は、AC-4の使い方になる

電磁接触器の使い方の区分(使用負荷種別)では、AC-3はかご形モータの始動と運転中の停止、AC-4はかご形モータの始動、プラッギング(急な逆転)、インチングです(オムロンの技術解説、IEC 60947-4-1 を引くLovatoの資料)。

ABBのカタログは、AC-3で切る電流は定格の使用電流(Ie)と同じ、AC-4では Ie の6倍としています。寸動では、モータが加速しきらないうちに切るので、始動の大きな電流を切ることになります(私の説明)。

三菱電機の同じ資料は、「標準責務(AC-3級)」とは別に「寸動責務(AC-4級)」の欄を設け、適用するモータの容量を小さくしています。オムロンのJ7KCのカタログでは、電気的耐久性(100万回以上)はAC-3級の値で、AC-4の値は載っていません。オムロンのカタログは、モータの始動電流が大きいと、電気的耐久性の低下や接点の溶着が起きることがあるとしています。

寸動を多く使う機械では、MCを選ぶときに、AC-4(寸動責務)の欄を見ます。三菱電機は、電気的耐久性が足りない場合は容量を上げることを検討するよう書いています。接点の寿命の考え方は、記事「リレーの寿命は年数ではなく開閉回数」で扱いました。

モータは、始動のたびに大きな電流が流れる

パナソニックの用語解説は、かご形誘導電動機の始動電流を、定格電流のおよそ5〜8倍としています。米国エネルギー省(DOE)の資料は、1時間あたりの始動の回数が推奨を超えると、固定子の巻線と回転子が過熱するとしています。

DOEの資料は、具体的な回数を米国の規格(NEMA MG 10)に任せています。日本のモータの許容回数を示した資料は、見つかりませんでした。寸動を繰り返す使い方は、モータのメーカーに許容の回数を確かめます。

寸動の回路を確かめる順番

  1. どの組み方かを図面で見る。切替スイッチか、寸動ボタンのb接点か、補助リレーか
  2. b接点の組み方なら、補助リレーの組み方に替えることを検討する。1回止まっても、押し方や部品で結果が変わる。動きを見るときは、機械の周りに人がいないことを確かめ、止まらなかったときにすぐ押せる停止ボタンや非常停止を用意して、職場の手順に従う
  3. MCの使い方の区分を見る。寸動が多いなら、AC-4(寸動責務)の容量で足りるか
  4. モータの始動の回数を見る。許容の回数はモータのメーカーに確かめる
  5. インバータのJOGなら、マニュアルで動き方を確かめる

まとめ

  • 寸動は、押している間だけ回し、離すと止める運転。自己保持をかけない
  • 寸動と連続運転の切り替えは、切替スイッチ、寸動ボタンのb接点、補助リレーの3つの組み方がある
  • b接点の組み方は、MCが切れる前にb接点が戻ると、自己保持が残って止まらないことがある。1回試して止まっても安全とは言えない
  • MCが切れるまでの時間は、資料の例(J7KC、MS-T)では数msから100ms程度で、MS-Tでは大きいMCほど遅い
  • 補助リレーの組み方は、MCが自己保持しないので、寸動で回しているときは寸動ボタンを離せば止まる
  • 寸動はAC-4の使い方。切る電流が大きく、AC-3の電気的耐久性の値はそのまま当てにできない
  • 始動を繰り返すとモータが過熱する。許容の回数はモータのメーカーに確かめる

参考にした資料

  • オムロン「低圧開閉器 技術解説」(https://www.fa.omron.co.jp/data_pdf/commentary/lowvoltageswitchinggears_tg_j_2_1.pdf)、「J7KC 電磁接触器」カタログ(https://www.fa.omron.co.jp/data_pdf/cat/j7kc_sgfr-602_4_2.pdf)、「インバータ 技術解説」(https://www.fa.omron.co.jp/data_pdf/commentary/inverter_tg_j_2_1.pdf)
  • 三菱電機「三菱電磁開閉器 技術資料集 MS-Tシリーズ」(https://dl.mitsubishielectric.co.jp/dl/fa/document/catalog/lvsw/sh-020005/sh020005c.pdf)、「電磁開閉器の選定」(https://www.mitsubishielectric.co.jp/fa/products/lvd/lvsw/ex/select/scale/index.html)、FAQ 21760(https://fa-faq.mitsubishielectric.com/faq/show/21760)
  • Lovato Electric「What is the utilization category of a contactor?」(https://academy.lovatoelectric.com/faq-items/what-is-the-utilization-category-of-a-contactor/?lang=en)
  • ABB「Motor Protection and Control」カタログ(https://resources.ipd.com.au/Flipbook/Contactor/files/basic-html/page184.html)
  • パナソニック「かご形誘導電動機」用語解説(https://www2.panasonic.biz/jp/terasu/skill/dictionary/squirrel-cage.html)
  • U.S. Department of Energy「Motor Systems Tip Sheet #10」(https://www.energy.gov/sites/prod/files/2014/04/f15/motor_tip_sheet10.pdf)
  • IEC Electropedia IEV 411-52-42(https://electropedia.org/iev/iev.nsf/17127c61f2426ed8c1257cb5003c9bec/20206d974f0258dbc12571ef00480400)
  • オリエンタルモーター FAQ 0466(https://www.orientalmotor.eu/de/support/faq/0466)
  • Aaron Lee・Chad Flinn『Basic Motor Control』(BCcampus、CC BY 4.0)「Jog Circuits」(https://opentextbc.ca/basicmotorcontrol/chapter/jog-circuits/)
この記事を書いた人
高卒電気マン

高卒から電気の道へ。プラントの電気保全を8年あまり、受配電設備の設計を経て、現在はクレーンの電気制御設計に従事。2026年に電験三種合格。壊れる側と作る側の両方を見てきた視点で、日々の学びを記録しています。

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